マラドーナも手術「慢性硬膜下血腫」には目の異常が表れる

マラドーナの手術は成功
マラドーナの手術は成功(C)Norio ROKUKAWA/office La Strada

 サッカーの元アルゼンチン代表のマラドーナ氏が、頭蓋内の血腫を摘出する手術を受け、成功した。還暦を迎えた同氏は、歩行困難などの体調不良を訴えていた。入院検査で慢性の硬膜下血腫が見つかり、1時間余の摘出手術を受けたという。この慢性硬膜下血腫は手術により完治が可能だが、「認知症」によく似た症状を生じるため、間違われやすい。発症すると目にも異常が表れる。一体どんな症状が出るのか? 「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長に話を聞いた。

■二重に見えたり、両目が片寄ったら要注意

 硬膜下血腫とは、軽微な頭部外傷の後、1~2カ月かけて頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と、脳の間に、小さな静脈の破綻による出血がたまって血腫ができる病気のこと。脳が圧迫されることによって引き起こされる頭痛や歩行困難のほか、物忘れなどがあり認知症に似た症状が出ることがわかっている。ただし、適切な時期に治療が行われれば基本的には完治できる疾患でもある。

 マラドーナ氏の硬膜下血腫は慢性硬膜下血腫と呼ばれ、老人によく見られるものだ。慢性硬膜下血腫の主な症状は、①消えない頭痛②錯乱と眠気③吐き気と嘔吐④呂律が回らない⑤バランスの喪失⑥歩行困難⑦体の片側の脱力感など。特に高齢者では、記憶喪失、見当識障害、性格の変化が見られ、認知症と間違われやすい。

 実はこの病気は、それ以外にめまいなど視覚の異常が表れることが知られている。

「出血が頭蓋内にたまって起きる脳圧亢進によって、うっ血乳頭(目の奥の視神経の出口を視神経乳頭といい、それがむくみ、充血した状態)が発生。その結果として頭痛、吐き気、嘔吐、視力低下が生じ、それをきっかけに病気が発見される場合も少なくありません。また、脳圧亢進による圧迫性の外転神経麻痺(目を外側に動かす筋肉のことを外直筋といい、その筋肉を動かす外転神経が何らかの原因で麻痺し、動かなくなる状態)によって、眼球運動が阻害されて複視(モノが二重に見えること)を訴えることもあります」

 また、脳内で眼球の運動などをつかさどる前頭眼野の圧迫により、共同偏視(病巣側や病巣とは反対側に両目が共に片寄ること)も神経眼科外来では見ることがあるという。

「いずれにせよ、頭部打撲の既往や、うっ血乳頭の存在などに気が付いて画像診断をすれば、比較的容易に正しい診断にたどり着くことができます」

■リスクの高い人も

 偶発的な頭部外傷から硬膜下血腫を発症することの多い慢性硬膜下血腫だが、リスクが高い人が存在する。心当たりがある人は日頃から注意していた方がいい。

「例えば、脳萎縮のある高齢者、コンタクトスポーツをするアスリート、抗凝血剤を服用している人と血友病患者、お酒が大好きな人、そして赤ちゃんです。赤ちゃんと聞いて意外に思われる人もいるかもしれませんが、赤ちゃんは4頭身でバランスが悪く、転倒などで軽く頭を打っただけなのに慢性硬膜下血腫になる場合があります。また、慢性タイプの硬膜下血腫は特に高齢者によく見られます。赤ちゃん同様、軽い頭部外傷でも引き起こしやすい。静脈性の出血はゆっくりと起こり、症状は数週間または数カ月間、表れない場合もあります。症状の発現が遅れているため、高齢者は頭部外傷がどのように起こったかさえ思い出せないことも多い。また、変化は非常に微妙でゆっくりと発生するため、友人や家族がその発症に気付かない場合もあります」

 診断が明らかになれば、治療は脳神経外科で頭蓋骨に穿頭の上、血腫を吸引することになる。

 この処置は脳外科医にとっては比較的容易なものなのだが、再発することがあるため注意が必要だという。

「私の知り合いの眼科医も、その診断がついていながら死亡に至ってしまった例もあり、私には忘れられない病気です。油断は禁物です」

 モノが二重に見えたり、目の位置がいつもと異なると感じたら、ためらわずに眼科や脳神経外科を受診することだ。

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