進化する糖尿病治療法

糖尿病患者の新型コロナ 感染のしやすさと重症化のしやすさ

重症化するリスクが…
重症化するリスクが…(C)新華社=共同

 糖尿病の人は、さまざまな感染症で受診や入院するリスクが高いことはよく知られています。特に血糖コントロールが不良の場合(HbA1c8%以上)は感染症が重症化しやすく、肺炎で入院した患者さんが高血糖だと、死亡リスクが高くなるとの報告もあります。

 では、糖尿病の人の新型コロナへの感染のしやすさはどうでしょうか?

 日本糖尿病学会では、ホームページで「糖尿病と新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」を6月26日に掲載しています。

「糖尿病は新型コロナウイルスの感染リスクに影響するか?」という問いに対し、「米国糖尿病学会の見解では、まだ十分なデータがない」「患者数が300人に満たない中国からの報告では、コロナ患者における糖尿病の有病率は、一般人口の糖尿病有病率より高いものもあるが、対象患者数が1000人を超える規模では一般人口の糖尿病有病率よりむしろ低いものが多くなる傾向がある」などとし、はっきりとした回答はしていません。

 最近分かってきたことでは、「糖尿病があってもコロナに感染しやすいとは言えない」ということです。

 数字で見てみましょう。中国のコロナ患者2108人における糖尿病患者の割合は10・3%。一方、2013年の同国の糖尿病有病率は10・9%と、ほとんど差はありません。

 また、米国のコロナ患者7162人における糖尿病患者の割合は10・9%で、18年の同国の糖尿病有病率は10・5%。やはり、ほとんど差がなかったのです。

 しかし、糖尿病の人はほかの感染症と同様に、コロナに感染すると入院や重症化のリスクが高くなるといえます。米国のコロナ患者7162人中、糖尿病患者で入院なしは6%、一般病棟への入院は24%、ICUで呼吸管理が必要になった人は32%。イタリア、中国からの報告でも、コロナ感染者の糖尿病患者は、入院、ICUでの治療が必要な人の割合が高くなる傾向にありました。

 では、同じ糖尿病でも血糖コントロールが良好な群と不良の群ではどうか? 

 中国のコロナ患者7337人における死亡リスクでは、7・8%が糖尿病ありで、2・7%が糖尿病なし。さらに血糖コントロールで見ると、良好の群(平均HbA1c7・3%)は死亡リスク1・1%で、不良の群(同8・1%)は11・1%。糖尿病があっても血糖コントロールが良好な群は、糖尿病なしと死亡リスクは同等で、不良の群は死亡リスクが高くなっていたのです。

 まとめると、まず、糖尿病があってもコロナに感染しやすいわけではない。次に、糖尿病があるとコロナで重症化するリスクがある。さらに、血糖コントロールが良好なら、重症化を避けられる可能性がある。

 糖尿病の患者さんの中には、コロナ感染を恐れて極力自宅にこもり、人と接触しないようにしている人もいるでしょう。仕事や学業、生活に必要な用事でステイホームとはいかず、不安を抱えながら外出していた人もいるでしょう。それによる運動不足やストレスは、糖尿病をはじめとする生活習慣病のリスクを高めます。

 また、全国の自殺者数が4カ月連続で増加。10月は、女性は前年同月比82%増と報道されていますが、ストレスの増大は自殺につながりかねないうつ病の発症率を高めることは言うまでもありません。

 正しい知識で行動することが大切です。手洗いやマスク着用、3密を避けるといったコロナの基本的な対策に加え、糖尿病の人は、より一層血糖コントロールに力を入れる。人がそれほど多くない場所や時間帯を選んで散歩など軽い運動を行う。自宅でストレッチするのもいいでしょう。コロナを恐れすぎず、脂肪やストレスをため込まないようにしていただきたいです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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