新型コロナ重症化は抗うつ薬で抑えられる ワシントン大が発表

コロナ禍はまだまだ続く
コロナ禍はまだまだ続く(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染者数が連日増加している。そんな中、非常に興味深い研究結果が世界的に権威のある医学誌「JAMA(Journal of the American Medical Association)」に掲載された。

 発表したのは、ワシントン大学の研究者。

「世界中で何十年も使われている古い抗うつ薬フルボキサミンが、コロナの重症化を防ぐというのです。フルボキサミンが悪化予防の唯一の薬ではないかとも期待されています」

 こう言うのは、この研究結果に着目する千葉大学社会精神保健教育研究センター副センター長の橋本謙二教授だ。

 この研究は、2020年4月10日から8月5日までの期間にコロナ感染が確認され、7日以内に症状が発症した成人外来患者152人(平均年齢46歳)を対象に行われた。152人を無作為に分け、80人にはフルボキサミン100ミリグラムを、72人にはプラセボ(偽薬)を1日3回、15日間投与した。

 この研究の背景にあるのは、昨年、米国の別の研究グループが発表した「フルボキサミンがうつ病だけでなく敗血症の悪化を予防できる」という研究結果。やはり世界的に権威のある医学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」に掲載されたが、それを読んだワシントン大学の研究者が、今回の研究を行ったのだ。

「フルボキサミンは、小胞体という器官に存在するシグマ―1受容体に、抗うつ薬の中で最も強く作用する薬で、私たちが1996年に最初に報告しています。そのメカニズムが、敗血症、ひいてはコロナ重症化の予防に関係していると考えられます」(橋本教授=以下同)

■服用群で悪化はゼロ

 ワシントン大学の研究では、フルボキサミンを投与した80人で呼吸器症状が悪化した人は0人。それに対し、プラセボ群では6人(8・3%)が悪化した。「呼吸器症状の悪化」の基準は、「息切れ、または肺炎による入院」「室内空気中の酸素飽和度が92%未満、または酸素飽和度92%以上を達成するための補助酸素の必要性」の両方を満たすこと、とした。

 では、なぜフルボキサミンがコロナの重症化を防ぐことができるのか?

 コロナに感染すると、ウイルスは細胞小器官の一つである「小胞体」という場所で複製し、増殖する。この際、引き起こされるのでは、と考えられているのが、小胞体ストレス(炎症)だ。小胞体ストレスは細胞にダメージを与えるので、症状が重症化する。

 一方、小胞体に存在するシグマ―1受容体には、小胞体ストレスを抑制する働きがある。つまり、症状を重症化させない。シグマ―1受容体に強く作用するフルボキサミンを服用することで、小胞体ストレス抑制機能が働き、コロナの重症化を抑制できるのだ。

「今回の研究は152人と対象者が少なく、フルボキサミンがコロナに効くメカニズムも仮説段階です。今後、多数の症例で調べる必要があるものの、非常に画期的な結果。コロナに感染しても重症化を予防できれば、コロナは怖い病気ではありません」

 すでに、ワシントン大学は880人の参加者を対象に大規模な試験を行うことを発表している。

 フルボキサミンは前述の通り歴史が古く、安全性が確保されており、安価。米国立衛生研究所のいくつかのプロジェクトの主任研究員を務める医師は、「フルボキサミンはコロナの早期治療のために適応外使用を検討するかもしれない」と述べている。

 なお、フランスで行われた大規模な多施設観察研究では、フルボキサミンと同様に抗うつ薬で、シグマ―1受容体に作用するSSRIがコロナによる人工呼吸器を必要とするリスクや死亡リスクを有意に減少させるとの結果が出ている。

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