進化する糖尿病治療法

発症リスク30%減 コレステロール低下が心筋梗塞を回避させる

卵などコレステロールの多い食品は常識の範囲内で摂取を
卵などコレステロールの多い食品は常識の範囲内で摂取を(C)日刊ゲンダイ

 2型糖尿病の人は、コレステロール、特にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の数値を下げることは必須項目です。血糖コントロールが悪く、さらにLDLコレステロールが高いと、さまざまな病気のリスクが上がるからです。

 糖尿病があると、糖尿病でない人に比べて心血管疾患の発症リスクが2~4倍高いといわれています。心臓に血液を供給する冠動脈で血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる冠状動脈性心疾患を発症すると、予後が悪いことも明らかになっています。

 LDLコレステロールが高いと、動脈硬化が進行するので、心筋梗塞のリスクも高くなります。糖尿病の心筋梗塞の発症頻度は、糖尿病でない人の5倍以上。すでに心筋梗塞を起こしたことがある非糖尿病患者が心筋梗塞を再発する頻度とほぼ同等という報告もあります。

 コレステロールは数値が高いほど心血管疾患のリスクを高め、LDLコレステロールが160㎎/デシリットル以上の糖尿病患者は、100㎎/デシリットル未満の糖尿病患者に対し、3・7倍、心血管障害が起こりやすいともいわれています。

 一方で、コレステロールを下げることで、糖尿病患者の心血管障害の発症リスクが低下することが、複数の臨床実験で明らかになっています。ある研究では、コレステロールを下げることで、糖尿病患者の心血管疾患の発症リスクが30%低下するとの結果が出ました。

■「低ければ低いほどいい」という考えも

 では、どれくらいまで下げるのがベターなのか? 欧米では臨床現場において、LDLコレステロールを70㎎/デシリットルまで下げろ、いや50㎎/デシリットルまで下げても問題ない、といわれています。私たちが母親の胎内にいた時、LDLコレステロールは30~40㎎/デシリットルほどしかないので、いくら下げても体に害はないだろうと考えられているのです。総コレステロールの値を下げるとともに、悪玉コレステロールが高かった時の半分の数値を目指すことを目標に治療が行われます。

 それに対し、日本でのLDLコレステロールの管理目標は、1次予防では120㎎/デシリットル、冠状動脈性心疾患を一度起こした人の2次予防では100㎎/デシリットルとなっています。ただし、喫煙、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、末梢動脈疾患、非心原性脳梗塞、主要危険因子の重複など「ほかの高リスク病態」を糖尿病と合併している時は、2次予防の管理目標はより厳格に70㎎/デシリットルとなります。LDLコレステロールを下げたほうがいいという点については欧米と一致していますが、欧米人と日本人とではデータが違うので、日本人では「50㎎/デシリットルまで下げろ」とはならないのです。

 LDLコレステロールを下げる上で大切なのは、まず食生活の改善。食事療法や運動療法は欠かせません。卵やレバーなどコレステロールの多い食品に関しては、常識の範囲内で摂取を。コレステロールは体内で合成できる脂質で、食事で摂取するコレステロールによる影響は少ないといわれているものの、コレステロールが高い人が1日に卵を4個も5個も取ることはおすすめできません。

 食生活の改善で数値が下がらなければ、薬物治療になります。LDLコレステロールが高い場合、スタチン系製剤が第1選択になります。薬をきちんと服用すると、LDLコレステロールは下がります。血糖値や血圧と比べて、コレステロールは「下がり過ぎ」を心配しなくていい。医師の管理のもとに正しく使えば、副作用も恐れるほどではない。「コレステロールは高いけど、薬は飲みたくない」という人がいますが、メリットがデメリットを大きく上回るのが、スタチン系製剤なのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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