進化する糖尿病治療法

血圧、血糖、血中脂質…3つともケアしている人はわずか1割

塩分、糖分、脂肪分すべてをケアすることは難しい
塩分、糖分、脂肪分すべてをケアすることは難しい

 糖尿病、高血圧、脂質異常症はいずれも動脈硬化と関係しています。適切な治療を受けずにいると、心臓を取り巻く冠動脈に狭窄や閉塞を生じ、心筋への血液の供給が減少したり、血流が途絶え、狭心症や急性心筋梗塞といった冠動脈疾患を引き起こします。

 糖尿病、高血圧、脂質異常症の3つの病気のうち、どれか1つを発症していれば残り2つも発症している、または予備群であるケースは珍しくありません。なぜなら、「インスリンの働きが悪くなって血糖値が高くなる」→「膵臓からインスリンがたくさん分泌される」→「塩分排出にかかわる腎臓の機能が低下して血圧が上がる」「肝臓で中性脂肪の合成が盛んになり、血中の脂質が増える」とそれぞれ関連しているからです。

 そして、糖尿病・高血圧・脂質異常症のうち1つだけ発症しているより2つ、3つ発症している方が、冠動脈疾患を引き起こすリスクが高くなるのです。

 本来であれば、血糖、血圧、LDL(悪玉)コレステロール・中性脂肪すべての数値を調べて、糖尿病、高血圧、脂質異常症の有無をチェックすべき。しかし、実際にそれができている人は少ないのです。

「トリプルリスクを考える会」が2018年に行った調査によれば、「血圧・血糖・血中脂質が1つ以上気になる」と答えた人は過半数を占めたのに対し(回答者1200人)、「1つ以上ケアしている」と回答した人は約32%、「3つともケアしている」と回答した人は10%しかいませんでした。

 また、この調査では「一度の食事で同時に塩分・糖分・脂肪分の取りすぎをケアできるのはいくつまでですか?」という問いに対し、塩分、糖分、脂肪分のすべてをケアできる人は10%未満でした。

 血糖値だけを下げても、または血圧だけ、LDLコレステロールや中性脂肪だけを下げても、動脈硬化や冠動脈疾患の対策は十分とは言えません。前述の通り、血糖値、血圧、LDLコレステロール・中性脂肪は数値が高くなる原因が共通しているので、食生活改善、運動習慣、さらに必要であれば薬物治療で、数値改善に取り組んでほしいと思います。

■狭心症、心筋梗塞のリスクが増加

 そのためには、まずは血糖、血圧、LDLコレステロール・中性脂肪の数値がどうなっているかを調べること! 「糖尿病で治療を受けているが、健康診断を長く受けていないので、ほかの数値がここ1年どうなっているか分からない」という人は、ぜひ主治医に相談してください。

 私が問題視しているのは、「ちょっとだけ数値が高い」人です。薬を飲むところまでいかないが、血糖値、血圧、LDLコレステロール・中性脂肪がいずれもちょっとだけ数値が高いと、病気だという自覚がないので、生活習慣改善がおろそかになりがちです。

 健康診断で「数値が高めですね。食事内容に気をつけ、運動習慣を身に付けてくださいね」と言われていても、記憶に残っていないのではないでしょうか。そのまま何も手を打たないで時が流れ、狭心症や急性心筋梗塞をある日突然起こして、搬送先で血糖値、血圧、LDLコレステロール・中性脂肪のいずれか、あるいはすべてが高いことを初めて自覚する……。一度、冠動脈疾患を発症すると再発リスクは高くなります。

 前述の「トリプルリスクを考える会」の調査結果で、「塩分、糖分、脂肪分のすべてをケアできる人は10%未満」との結果が出ていました。数値がちょっとだけ高い段階なら、食生活の改善は、冠動脈疾患発症後ほど厳格にしなくて済むかもしれません。

 今年も残すところあと1カ月です。数値の確認がまだの人は、年内のうちにぜひ。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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