重症化を防ぐ 新型コロナの治療に「抗生剤」が有効な可能性

医療関係者は懸命に患者と向き合っているが…
医療関係者は懸命に患者と向き合っているが…(C)新華社/共同通信イメージズ

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。まずは感染予防が重要なのはもちろんだが、治療に当たっている現場では、いかに感染者の重症化を防ぐかが重視されている。その手段のひとつとして「抗生剤」が注目されている。

 抗生剤は、細菌を退治したり増殖を抑える薬で、一般にウイルスに対しては効果がないと考えられている。しかし、新型コロナ患者の治療現場では広く使われている。軽症~中等症状の新型コロナ患者を受け入れている江戸川病院では、免疫調整剤のプラケニル(ヒドロキシクロロキン)を使って炎症を抑えながら免疫を調節し、マクロライド系抗生剤のアジスロマイシンを併用して肺炎の重症化を防いでいる。

 細菌性肺炎の合併を防ぐ意味もあるが、じつはマクロライド系抗生剤には、新型コロナに対して有効な作用がある可能性が指摘されている。「今井病院」の血液内科部長で血液内科専門医・指導医の竹森信男氏が言う。

「今年8月、多発性骨髄腫の治療にマクロライド系抗生剤の『クラリスロマイシン』が有効であることを示した論文を『ecancer』という英国の専門誌に投稿し、電子版に掲載されました。論文作成過程でクラリスロマイシンの作用が新型コロナウイルスに対しても有効である可能性にたどり着き、論文に追加記載しました。クラリスロマイシンはマクロライド系抗生剤のひとつで、細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えることで効果を発揮します。その他にも多彩な免疫調節や抑制作用があり、新型コロナにも有効な可能性があるのです」

 竹森氏によると、クラリスロマイシンには以下のような作用があるという。

■免疫の調節や抑制作用があり、とりわけインターロイキン6(IL―6)を顕著に抑制する

 新型コロナによる肺炎の重症化は、過剰な免疫反応で生じるサイトカインストームが主な原因といわれている。炎症を防ぐためのサイトカインが大量に放出されて暴走し、逆に強い炎症を起こす。IL―6は炎症を伴う疾患で高値を示すサイトカインで、重度の間質性肺炎や肺線維症を引き起こすことから、新型コロナの重症化にも大きく関わっている。

「クラリスロマイシンはIL―6などの炎症性サイトカインの放出を抑制するので、サイトカインストームを防ぐ効果があります。適切なタイミングで使用すれば、エクモや人工呼吸器などを使う状態に至る前に病状を改善させる可能性があります」

■分泌型IgAを非特異的に産生する

 ウイルスや細菌といった異物が体内に侵入すると、抗体の機能を持つ免疫グロブリンが作られて排除しようとする。IgAは免疫グロブリンのひとつで、全身の粘膜面でウイルスと結合して無力化し感染を防ぐ。

「IgAは、特定のウイルスや細菌だけに反応するのではなく、多くのウイルスや細菌に反応します。ヒトの免疫機能のフロントラインに位置しているといえる物質で、クラリスロマイシンはその産生を促す作用があるのです」

■宿主プロテアーゼの活性を阻害する

 新型コロナウイルスがヒトの細胞に侵入するとき、自身の表面にあるスパイクタンパク質(Sタンパク質)という突起を鍵として使う。鍵穴に当たるのがヒトの細胞膜上にある「ACE2受容体」で、自身の鍵を細胞側の鍵穴に合わせて吸着する。さらに細胞内に侵入する際は、宿主側のプロテアーゼというタンパク分解酵素を利用している。活性化した宿主プロテアーゼによって、標的となる細胞の受容体に結合したSタンパク質が切断されると、ウイルスと細胞の膜との融合が誘導され、ウイルスが細胞内に侵入し感染が成立する。

「海外の研究では、クラリスロマイシンが宿主プロテアーゼの活性部位に結合し、プロテアーゼの活性を阻害してウイルスの増殖を防ぐ可能性が指摘されています。とりわけ、新型インフルエンザ治療薬のアビガンや吸入ステロイド薬のシクレソニドとの併用や、抗マラリア薬のクロロキンとの併用で大きな治療効果があったと、国内外で症例報告があります」

 すでにギリシャでは新型コロナ患者にクラリスロマイシンを単剤で使用する臨床試験が行われているという。

「クラリスロマイシンをはじめとしたマクロライド系抗生剤は、副作用が少なく価格も安い薬です。世界中で広く使われているので入手しやすく、高度な医療が期待できない地域や施設でも使えます。臨床研究が進んで、さらに有効性が確認されることを期待しています」

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