Dr.中川 がんサバイバーの知恵

4割は自己判断で… がん手術4週間遅れで死亡リスク8%上昇

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 北海道の旭川や大阪では、新型コロナウイルスの感染拡大で医療体制が逼迫。自衛隊の看護師らが派遣されることが決まりました。旭川では、市内にある2つの医療機関で大規模な集団感染が起きていて、緊迫した状態となっています。

 そんな状況を前にしてコロナ以外のほかの病気の治療をどうするか。特にがんについて、患者目線での対策を前回紹介しました。そのひとつがセカンドオピニオンの大切さですが、改めてその重要性を痛感させる調査結果が報告されています。

 がん患者の就労を支援する「CSRプロジェクト」は、診断から5年以内のがん患者310人にウェブ調査。そのうち40人が治療や外来をキャンセルしたり、延期したりしていました。具体的には外来と検査のキャンセル・延期が多く、薬物治療や手術、放射線のキャンセル・延期もありました。

 驚くのは、その理由です。「自己判断」が15人で、「患者仲間の助言」が2人いたのです。コロナ禍はしばらく続くでしょう。自己判断で治療をやめた人は今後、どうするのか。そんな人に知ってほしいのが、治療の遅れによる影響です。

 医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」電子版に、がん治療が4週間遅れることで死亡率がどうなるか検証した論文が掲載されました。対象は膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、子宮頚がん、頭頚部がんの7種類について、治療の遅れを、遅れなかったグループと比較しています。

 結論からいうと、手術は4週間遅れると、死亡リスクを6~8%上昇させていました。手術の前と後に行われる補助化学療法の遅れについても検討。中でも、膀胱がんの術前化学療法の遅れは24%、乳がんの術前化学療法の遅れは28%も死亡リスクを高めています。

 放射線については、頭頚部がんへの根治的放射線療法で9%、子宮頚がんへの術後放射線療法で23%の死亡率アップと報告されました。

 今回の研究は、すでに報告されている研究を厳密な基準でふるいにかけて34件に絞り込んで統合し、詳細に検討したものです。後ろ向き研究とはいえ、有意差が認められていて、信頼性が高い。この結果は、見逃せないでしょう。

 そんな研究結果が出たところに、先ほどの調査です。医療関係者の判断ではなく、自分や友人の意見で治療を中断した人が40人中17人と4割超。このコロナ禍では、治療の遅れが4週間では済まない恐れがあります。たとえば胃がんや大腸がんなど早期なら内視鏡で治るのに、1年も手術が遅れたら大変なことになります。

 重ね重ねになりますが、不安ならセカンドオピニオンを取ったり、各地のがん診療拠点病院にある「相談支援室」に相談するといい。相談支援室は、その病院の患者でなくても利用できます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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