専門医が教える パンツの中の秘密

卵巣がんを予防する効果も 「ピル」の意外な効能と副作用

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 女性が主体的に取り組める避妊法に「ピル(経口避妊薬)」の服用があります。

 ピルには、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類の女性ホルモンが配合されています。

 エストロゲンの含有量によって「高用量ピル」「中用量ピル」「低用量ピル」「超低用量ピル」に分類され、用量が多いほど治療的な意味合いが強くなります。避妊目的など一般的に使われるのは「低用量ピル」です。

 では、なぜ女性ホルモンを服用すると、避妊できるのでしょうか。エストロゲンには、卵子の発育と子宮内膜を増殖させる働きがあります。プロゲステロンには、子宮や体を妊娠に適した状態に維持する働きがあります。この2つの女性ホルモンの血中濃度が高まると、脳が「卵巣が女性ホルモンを出し過ぎている」と錯覚し、卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌が抑えられて排卵しなくなるのです。低用量ピルを正しく服用すると、99.7%の避妊効果があるとされています。

 避妊以外にも、月経痛の軽減、月経不順・月経過多の改善、月経前の不快症状である月経前症候群の改善などの効果も認められています。また、子宮内膜症の予防、卵巣がんや子宮体がんのリスクを下げる効果も期待できるとされています。

 英国の医学雑誌「ランセット」(2008年)に、ピルを長期間服用することで卵巣がんの発生が半減するという研究結果が発表されています。卵巣がんの抑制効果は服用期間が長いほど高く、5年で約3割、10年で約4割、15年で約5割、発症リスクが下がるとしています。

 このようにピルで排卵・月経を抑えることは、子宮の負担を減らしてさまざまなメリットがあると考えられます。しかし、その一方で、注意しなくてはいけないこともあります。避妊効果は高くても、コンドームを使用しない性交をすることで性感染症になる確率が高くなることです。特に子宮頚がんの原因になるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染は、低用量ピルの使用期間が長くなるほど増大します。

 それと、ピルの重大な副作用として「血栓症」(血の塊ができる)のリスクがあることです。

 15~19歳の女性のリスクを1とした場合、25~29歳で約2倍、30~34歳で約3倍、35~39歳で約4倍と高まるので、40歳以上は慎重投与、50歳以上や閉経後の人は禁忌となっています。また、喫煙も血栓症のリスクが高まりますので、35歳以上で1日15本以上吸う人もピルは服用できません。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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