病気を近づけない体のメンテナンス

筋肉<上>高齢でも間に合う 「インターバル速歩」で寝たきりを回避

「下半身」を鍛えることが重要
「下半身」を鍛えることが重要(C)日刊ゲンダイ

 人は20代をピークに加齢とともに「筋力(パワー)」と「持久力(スタミナ)」が年々減っていく。筋力は毎年約1%ずつ低下し、60歳では20歳の頃の約60%しかない。持久力も60歳では20代の頃に比べて、30%も低下してしまう。

 そして、「歩く」「立つ」「持つ」などの体を使う活動の総量を指す「身体活動量(体力)」が、20代の「30%以下」になると、日常生活のために必要な動作をすることが困難になるといわれる。つまり、寝たきりになる可能性が高いということだ。

 しかし、この30%のラインを70歳で超えてしまう人もいれば、90歳手前まで超えない人もいる。この違いは「運動習慣」。海外の研究では、日頃から何か運動している人は特に運動していない人に比べて、30%のラインを下回る期間(健康長寿)が約15年間延びると報告されている。

 運動習慣の効能は、加齢とともに減少する「筋肉の量」を増やし、低下する筋力と持久力を維持できること。特に全身の筋肉の60%が集中する「下半身」を鍛えることが重要になる。NPO法人熟年体育大学リサーチセンター副理事で、信州大学医学部の能勢博特任教授が言う。

「下半身の筋肉の衰えは身体活動量の低下だけでなく、生活習慣病も招くという説が世界のスポーツ医学界の潮流になりつつあります。加齢や運動不足で筋肉の量が減ると、筋肉の中にも存在している『ミトコンドリア』が衰え、それが原因となって体の中で炎症を引き起こす『炎症性サイトカイン』という物質が分泌されるからです」

 ミトコンドリアとは、体のすべての細胞内に100~2000個程度存在するカプセル状の小器官。食事から摂取した栄養と呼吸から得られた酸素を使って、体を動かすエネルギー(ATP)を作っている。年齢が増すごとに体力が落ちるのは、ミトコンドリアが減り、衰えて活性酸素を出し始めるから。

 さらに最近の研究では、ミトコンドリアが衰えることで炎症性サイトカインが分泌され、それが免疫細胞で炎症を起こせば高血圧に、脂肪細胞で炎症を起こせば糖尿病に、脳細胞で炎症を起こせばうつ病や認知症になるという考え方が示されている。

 しかし、ミトコンドリアは何歳からでも増強することが可能。ウオーキングや自転車こぎなどの有酸素運動の合間に、きつめの運動を挟むと体がエネルギー不足を感知して、慌ててミトコンドリアを増やすという。このように下半身の筋肉量を増やし、ミトコンドリアを活性化することは体力を維持するだけでなく、さまざまな病気の予防になるのだ。

 では、下半身の筋肉量を効率よく増やすには、どのような運動をするといいのか。

「筋力は『速筋』、持久力は『遅筋』という別々の筋肉によって支えられています。この2つの筋肉を増やすには、それぞれ別の運動が必要です。筋力を支える速筋に必要なのは、『無酸素運動』。いわゆる筋トレです。一方、持久力を支える遅筋を鍛えるのは、ウオーキングやジョギングなどの酸素を多く使う『有酸素運動』。この両方の運動を同時にできるのが、私たちの研究グループが提唱する『インターバル速歩』という歩き方です」

■5カ月続けると体力は最大で20%向上

 やり方はこうだ。「息が上がるくらいのきつめの早歩き」と「ゆっくり歩き」を交互に3分間ずつ繰り返し、1日30分(5セット)行う。週4日でOKなので、無理なく続けることができる。早歩きのスピードは「もう限界」と感じる最大体力の「70%以上のきつさ」を目安に大股で歩く。

 体力に自信がない人は「早歩き1~2分」×「ゆっくり歩き1~2分」で慣らしていけばいい。重要なのは、週にトータル120分歩く(回数は関係ない)うちに、トータル60分の早歩きを行うことにある。

「きつめの大股の早歩きには、スクワットなどの筋トレと同じ運動効果があるのです。最大酸素摂取量の50%以上の強度の運動をすると、血中の乳酸濃度が上がり始め、筋肉増加に働く成長ホルモンを出したり、アミノ酸を取り込んで筋肉を修復し、筋肉を増やすように働きます。単にウオーキングだけでは最大運動強度の40%以下なので、『1日1万歩』を続けても筋肉は増えません」

 インターバル速歩を5カ月続けると、体力は最大で20%向上、生活習慣病の指標は20%改善。うつ傾向の人や慢性関節痛の人も半数の症状が改善。認知症のリスクなどが下がることも8700人のデータで実証されているという。

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