科学が証明!ストレス解消法

「終わりよければすべてよし」は科学的に証明されている

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 早いもので、もういくつ寝るとお正月。コロナに振り回された1年でしたが、終わりよければすべて良し。何をのんきなことを……なんて思われるかもしれませんが、「終わりよければすべて良し」には科学的エビデンスがある、と私は解釈しているんです。

 ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学の行動経済学者、ダニエル・カーネマン氏は、「ピーク・エンドの法則」という法則を発表しています。これは、私たちはある過去の経験を、ピーク時にどうだったかと、どう終わったか(エンド)によって判断する、というものです。

 その証明として、被験者を2つのグループに分け、大音量の不快な騒音を聞かせるという実験を行っています。Aグループにはずっと同じ騒音を、Bグループには時折Aグループよりもひどい音が混じる一定ではない騒音で、最後は少しましな音になる――。その結果、Bグループの方が、Aグループよりも不快さの評価が低かったのです。つまり、「ひどい音を聞かされた(ピーク)ものの、それほどではなくなった(エンド)」という記憶が、不快感を和らげる形になったのです。

 また、心理学用語で「新近効果」というものがあります。これはアメリカの心理学者であるノーマン・H・アンダーソン氏によって提唱されたもので、「最後に示された特性が記憶(印象)に残りやすく、後の判断に大きな影響を与える」というものです。

 アンダーソン氏は被験者に対し、実際の事件を題材にして模擬裁判を行いました。被験者たちを陪審員、弁護士、検事の3組に分け、その中で証言の与え方によって陪審員の判断がどう変わるのかを検証しました。証言は弁護側に6つ、検事側に6つ用意します。

 その結果、証言の数をどのように出しても、陪審員は最後の証言をした側に有利な結論をくだす傾向がある。つまり、「人は違う情報源から多くの情報を与えられると、最後に得た情報に影響を受けやすい」ことが分かったのです。コンテストなどで最後に登場する人が有利になるのは、何かを判断する際には、直近の情報を判断材料にしやすいといった心理が働くからなのです。

 科学的なエビデンスから考える「終わりよければすべて良し」とは、「いろいろあったけど、最後に良いことがあったから良かった!」というよりは、最後に得た経験の感想が、これまでの経験の感想に勝るということ。

 アンハッピーな出来事が起きたときに、その出来事だけで完結させると、「なんでこんなことに」なんて落ち込んでしまうと思います。財布を落とした出来事だけを考えれば最悪の出来事になってしまいますが、誰かが拾って届けてくれた出来事まで含めると、最高の出来事に変わってしまう。

 物事(出来事)を良い思い出や結果として解釈するには、最後の出来事を楽しかった、良かったと思えるエピソードにひも付けてしまえばいいのです。“自分のいいように記憶をコントロールすれば幸せ体質にもなれる”ということを、このことわざは教えている――と、私は勝手に思っています。


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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