進化する糖尿病治療法

「薬の飲み忘れ」や「注射の打ち忘れ」は主治医へ相談を

写真はイメージ
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 糖尿病の薬を飲み忘れたり、インスリン注射を打ち忘れたり……。糖尿病を患う多くの人が、経験があるのではないでしょうか?

 薬の飲み忘れや注射の打ち忘れは血糖コントロールの悪化につながるのでやめていただきたいのですが、「100%完璧に」とはなかなかいかないものです。

「日本イーライリリー」が2017年に経口糖尿病治療薬を服用している2型糖尿病患者2942人を対象に、残薬に関する調査を行いました。残薬とは、飲み忘れて残った薬のことです。

 この調査結果によると、「残薬がある」と答えた人は33・1%。残薬がある患者さんの服用回数で最も多かったのは「1日3回以上」で、40・2%でした。

 また、残薬がある患者さんで困っていることについて聞いたところ、1位「薬の種類が多い」(26・3%)、2位「一度に飲む量が多い」(22・4%)、3位「タイミングを守ることが難しい」(17・5%)と、薬の量や種類、服薬のタイミングに関する項目が上位になりました。

 この調査では、「病識・治療態度」と「生活スタイル・性格」に関する回答を、因子分析を用いて分析。残薬が生じている患者さんには2つのタイプの傾向がみられたそうです。

 具体的には、「自分は軽症で服薬管理は難しくない」といった楽観的志向と、「フルタイム就業などで生活が多忙で服薬管理は難しいと感じており、自分の病態の現状をあきらめている」といった治療あきらめ志向です。

 なお、これら残薬について医師に報告しているかという質問に対しては、残薬がある患者のうち34・7%は「申告をしていない」。つまり、3人に1人は残薬を申告していませんでした。

■使いやすいタイプに変更できるチャンス

 もし残薬やインスリン注射の打ち忘れがあるようなら、「怒られるかも」などと思わず、ぜひとも医師に申告してください。薬の開発は日進月歩であり、新しい薬が登場しています。複数種類の薬が合わさった合剤や、週1回の注射でよいインスリン注射、また1日のうちでどのタイミングで打ってもいい注射などが出ています。

 冒頭で述べたように、医師側としては、薬の飲み忘れ・インスリン注射の打ち忘れは極力避けたい。もし飲み忘れ、打ち忘れがあるようなら、どうすればそうならずに済むかを考え、対策を講じます。糖尿病の患者さんは、高血圧や脂質異常症などほかの生活習慣病を抱えている人も多い。何種類もの薬を飲んでいる場合は、ほかの薬と飲むタイミングを同じにできる糖尿病の薬に替えるという手もあります。患者さんの性格によって、週1回のインスリン注射の方が合っている人もいれば、むしろ毎日打つ方が打ち忘れがないという人もいるでしょう。

 医師から「こういう新しい薬が出たので、どうですか? ◎◎さんにはそちらの方が合っているかもしれませんよ」などと提案してくれるのでは……と考えている患者さんもいるかもしれません。今まで処方していた薬では血糖コントロールが難しくなった場合や、これまでとはメカニズムが違う非常に優れた薬が登場した場合は、医師からそういった提案があるかもしれませんが、一般的に医師は現状を維持してしまいがち。患者さんから何もアクションがなければ、従来薬で良いと判断し、薬を替えようとはしないでしょう。

 合剤で薬の数を減らせられる患者さんに対しても、「ほかにもたくさん薬を飲んでいるのだから、糖尿病の薬だけ数を減らしても、患者さんはさしてメリットに感じないだろう」と医師は考えてしまいます。

 飲み忘れ・打ち忘れがあるならそれを伝え、たとえば「薬の数を減らせないでしょうか?」「注射の打つ回数は少なければ少ないほどいいのですが、ほかのものに替えられませんか?」などと聞いてみる。たいていの医師は、飲み忘れ、打ち忘れを頭ごなしに怒ることはしませんよ。

 そしてもうひとつ。楽観的志向の人は、なぜ薬が必要なのかを、いま一度考えてみるべきです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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