新型コロナワクチンを接種して血栓ができてしまうのはなぜ

アストラゼネカのワクチン接種は再開されたが…
アストラゼネカのワクチン接種は再開されたが…(C)ロイター

 世界各国で新型コロナウイルスワクチン接種が進む中、副反応で起こる「血栓症」が注視されている。WHO(世界保健機関)の諮問委員会は「現時点で接種と血栓との関連を示す形跡はない」と発表しているが、心配ないのか。

 デンマークでは、アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを接種後に血栓症と脳出血によって病院関係者が1人死亡、1人が重篤な状態だと発表された。ノルウェーでも、同ワクチンを接種した後に血栓症と脳出血などで重症となった事例が複数報告され、オーストリアでは49歳の女性が多発性血栓症で死亡。これまで160万回分のワクチン接種が行われたドイツでは、7人に脳静脈血栓症が確認されている。

 こうした報告が相次いだことで、欧州各国はアストラゼネカのワクチン接種を一時見合わせていたが、WHOの諮問委員会やEMA(ヨーロッパ医薬品庁)が先日発表した「ワクチンは安全である」との見解を受け、フランスやドイツなどで接種が再開された。

 東邦大学医学部名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏は言う。

「新型コロナワクチンとの因果関係ははっきりしていませんが、ワクチン接種によって血栓がつくられる要因としてまず考えられるのが『ADE』です」

 ADEとは「抗体依存性感染増強」と呼ばれ、ワクチンの投与によってつくられた中和が十分できない悪玉抗体がウイルスにくっつき、細胞に対するウイルス感染を促進し、免疫細胞が暴走して症状を悪化させる。

「中和が不十分な悪玉抗体にウイルスがくっつくと、ウイルスはその抗体のFc受容体を使い、体の組織の細胞や免疫細胞に取り込まれやすくなります。それで感染症が重症化し、マクロファージやTリンパなどの免疫細胞がウイルスを撃退するために炎症性サイトカインを大量に動員します。これが血小板凝集を高進させ内皮細胞を傷つけることにより、血栓ができやすくなるのです。こうした事例はデング熱ワクチンや、かつての麻疹ワクチンなどで報告されています。ただ、今回のコロナワクチンは純度が高く、中和が不十分な悪玉抗体はつくりにくいといわれています。ADEが生じた報告も見当たりません。また、ワクチン接種後の血栓症は脳静脈洞に多いことから、特定の人に対する特定の場所での反応だと考えることもできます。冠動脈血栓による心筋梗塞、肺血栓塞栓症、脳梗塞といった一般的な血栓症はほとんど見られないので、現状ではそこまで心配しなくていいでしょう」

■血小板が減少するケースも

 ワクチン接種によって血栓が生じるケースには、他に「血小板減少症」も考えられる。

 ノルウェーでの事例では、50歳未満の医療関係者3人が血栓症や脳出血で入院し、うち1人が死亡。いずれも共通して血液を固める働きがある血小板の数が減少していたという。米国でも、ファイザーのワクチン接種後に「免疫性血小板減少症(ITP)」を発症する事例が複数報告され、56歳の産婦人科医が死亡している。

「同じように『TTP』(血栓性血小板減少性紫斑病)や『HIT』(ヘパリン起因性血小板減少症)でも血小板が減少し、血栓が生じます。止血因子VWF(フォン・ヴィレブランド因子)を切断して効力を減らす酵素(ADAMTS13)の活性が、薬剤、感染、ワクチン交差免疫などによって低下し、血小板が凝集しやすくなって血栓がつくられます。そのため血液中の血小板も減ってしまうのです。こうした血小板減少症は、これまで風疹、麻疹、インフルエンザ、BCGといったワクチンや、抗生剤、解熱鎮痛剤などの薬剤で起こったケースも報告されています。ただ非常にまれな頻度ですし、今回のコロナワクチンで起こりやすいわけでもないので、いたずらに不安がる必要はありません」

 メカニズムとして、ワクチン接種によって血栓症や血小板減少症がまれに起こる可能性がある。万が一の時、適切な医療を受けられるよう、知識として蓄えておこう。

関連記事