スマートフォン(以下、スマホ)の急速な普及に伴い、スマホの使い過ぎによる「スマホ老眼」と呼ばれる新種の老眼が急増している。加齢による本物の老眼とは異なり、目のレンズの役割をしている「水晶体」の厚みを調節している「毛様体筋」という筋肉が疲労し、ピント調節機能に一時的な不具合が起こるのだ。
眼科専門医である「クイーンズ・アイ・クリニック」(横浜市西区)の荒井宏幸院長が言う。
「視力がいいと思っている人ほど、『自分はスマホ老眼にならない』と思い込んでいるケースが多いのですが、それは間違いです。なぜなら『生まれつきの目の良さ(視力)』と『スマホ老眼(目の調節機能のトラブル)になる可能性』には関連性がないからです。特に視線を遠くから近くに移したとき、もしくは近くから遠くへうつしたときに『見えにくい』『目がかすむ』と思ったら、スマホ老眼の可能性が大です」
しかし、スマホ老眼は毛様体筋の疲労なので、日常的に「目のケア」を行うことで解消することが可能。どんなことを心がけるといいのか紹介してもらう。
■5分間、目を閉じる
仕事をしていて「疲れた」と感じたら、目も疲れているはず。そんなときは5分間、目を閉じて休憩する。目を閉じた状態は毛様体筋が最もリラックスした状態になる。 電車に乗って移動しているときにスマホを操作している人は多いが、揺れる乗り物の中では手元がブレるので余計に目を疲れさせる。短い移動時間だからこそ、貴重な目の休憩時間として目を閉じるようにしよう。
■ホットパック習慣
蒸しタオルや市販のシートで“目を温める”セルフケアを「ホットパック」という。
目を温めると気持ちがいいのは、血流がよくなり、目の筋肉の疲労が和らぐからだ。
「目の上下のまつげの生え際には、まつげと並ぶように『マイボーム腺』という分泌腺が点在しています。ここから油が分泌され、涙の成分に油分を加えて油膜をつくり、涙の蒸発を防いでいます。ところがマイボーム腺は詰まることがあり、ものもらいやドライアイ、眼精疲労の原因になります。その詰まりを取ってくれるのがホットパックです。マイボーム腺の油が溶け出す温度が約40度だからです。湯船のお風呂の適温とほぼ同じなので、入浴中にタオルでホットパックをするといいでしょう」
2~3日に1回、ホットパックの習慣を続ければ、スマホ老眼の改善だけでなく、ドライアイも防いでくれる。
■目薬を上手に使う
スマホ老眼とドライアイには相関性があり、一方の症状が出ると、もう一方の症状も出やすくなる。目の乾きが気になるときは目薬をさそう。デスクワークなら2~3時間に1回程度さしてもOKだ。
ただし、次のようなことに注意しよう。①ドライアイ対策には「人工涙液」などできるだけシンプルな成分の目薬を選ぶ②防腐剤の入っていない目薬を選ぶ③刺激が強いタイプの目薬は避ける④目薬をさす前はよく手を洗い、容器がまつげやまぶたに触れないようにさす⑤目薬を1滴さして、点眼後にまぶたを5秒閉じる⑥目薬をさしていても目に異常を感じたら眼科を受診する。
■目のツボ押し
「目が疲れたとき、まぶたの上から『眼球を押す』人がいますが、気持ちよくても非常に危険なのでやめてください。それは眼圧が急激に上がってしまうからです。私が唯一、おすすめしているのは『目のツボ押し』です」
眼球が収まっている頭蓋骨の上側にある、小さなくぼみを「眼窩上孔」という。眉頭の内側から3分の1ほどのところにあるポコッとくぼんでいる場所だ。ここの骨の部分を押すと、その奥にある上眼窩裂という頭蓋骨のすき間に刺激が伝わっていく。ここには動眼神経や三叉神経、交感神経などさまざまな神経が通っているので、押して刺激すると目の疲れが解消されるのだ。
■チラ見エクササイズ
パソコンなど近くを見ながらの作業を続けている場合に時々、意識的に遠くを見る習慣だ。窓の外に見える看板や標識などを目標物にするのがベスト。外が見えない状況であれば、なるべく遠い壁の時計、カレンダー、ポスターなどの掲示物を目標物にしてもいい。ほんの一瞬でも毛様体筋がリラックスできるからだ。
このチラ見エクササイズを1時間に1~2回行うといいという。
病気を近づけない体のメンテナンス