新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。国が決めた優先順位にしたがって、医療従事者に続いて高齢者でも接種がスタートしています。
その次に優先接種の対象になるのが「基礎疾患のある方」です。厚労省では、13の疾患と肥満(BMI30以上)の人を基礎疾患があると定めていて、「高血圧を含む慢性の心臓病」で通院・入院している人も対象になっています。
アメリカ心臓協会(AHA)でも、「心血管の病気にかかっている人や心血管障害のリスクがある人は、自分のためだけでなく家族を守るためにもできるだけ早くワクチンを接種した方がよい」としています。心臓疾患のある人が新型コロナに感染すると重症化しやすく、死亡リスクも高くなるからです。
そもそものお話をすれば、心臓疾患のあるなしに関係なく、ひとりでも多くの人がワクチンを接種すべきだと考えています。患者さんの中には、副反応をはじめとしたワクチンに対するさまざまな不安から、接種を躊躇している方も少なくありません。しかし、ウイルス感染をコントロールするためにはより多くの人がそれぞれの体内で抗体をつくることが求められます。一人一人が自発的にワクチンを接種して感染予防を実践する。それが、自分だけでなくまわりの人を守ることになるという意識を持たなければなりません。
もちろん、心臓に持病のある患者さんがワクチンの副反応に対して不安になる気持ちはよく理解できます。しかし、副反応のリスクよりも、感染によるリスクや重症化して高度治療を受ける可能性の方がはるかに高いといえます。
■心臓病の患者が接種しても安全
知人の中に、新型コロナに感染した人が数人います。ほとんどが回復しましたが、肺炎の後遺症として呼吸器障害が残ったり、血栓症や心筋梗塞を起こしたり、抵抗力が落ちて回復後に敗血症になり亡くなってしまった人もいます。
われわれがコロナに感染した患者さんの手術を行う場合、体内からウイルスがいなくなった時点から6週間の期間を空けます。コロナ感染症が治っても後遺症が出ないかどうか、全身状態に問題がないかどうか、1カ月半は経過を観察しなければ手術できないのです。
一般的な風邪のように治れば1日か2日で普段の状態に戻り、食べたり飲んだり動いたりできるようになるとはいかないのが新型コロナなのです。
ですから、とにかく感染しないことが何より重要で、そのために現時点で打てる最も有望な手段がワクチン接種といえます。ワクチンを承認したアメリカ食品医薬品局(FDA)は「心血管障害の患者が接種しても安全である」としていて、血液をサラサラにする抗凝固剤を服用している人にも、注射部位での出血などに十分注意すれば安全に接種可能と発表しています。
それでも不安だという患者さんに対応するため、ワクチンを接種した当日に1日だけ経過観察入院できるようなシステムを考えています。ワクチンによる副反応は健康被害です。もしも被害を受けたときに誰が自分を守ってくれるのかというと、それは「医療」です。その医療をいちばんスムーズに提供してもらえる方法は「病院にいること」になります。
ワクチン接種による短期の副反応でいちばん怖いのはアナフィラキシーです。アレルギー反応の中でも特に重篤な症状を引き起こし、抗原が体内に入ることで複数の臓器や全身に症状が表れ、命に危険が生じる場合もあります。アナフィラキシーが起こる場合は、ワクチン接種から24時間以内がほとんどなので、接種当日に1日入院すれば万が一に備えることができます。
ワクチン接種の経過観察入院は保険が適用されず自費診療になってしまいますが、超高齢者や基礎疾患をいくつも抱えている人にとっては、ワクチンに対する不安を払拭できる手だてになるのではないかと思うのです。
ただ、順天堂医院は普段から病床が不足気味なので、実現したとしても週末だけという制限を設けることになるでしょう。急性期病院は週末になるとベッドが空く率が高くなるので、患者さんの状態と医療的な判断が合致すれば、そのタイミングを有効活用するのです。
ワクチンへの不安を少しでも減らし、ひとりでも多くの人が接種に臨むことを期待しています。
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