Dr.中川 がんサバイバーの知恵

男女とも喉頭がん経験者トップ 2度目のがんのリスクと予防

食べ過ぎ、飲み過ぎに注意
食べ過ぎ、飲み過ぎに注意

 がんは、細胞分裂によって生じるDNAのコピーミスが原因のひとつ。分裂が多くなればなるほど発症リスクが高まりますから、高齢社会を突き進む日本でがん患者が増えるのは、ある意味必然といえます。

 そこで注目されているのが、米国の研究です。成人後にがんを発症し、治療で克服したがんサバイバーが、その後、別のがんを発症するリスクやその死亡リスクについて分析したもので、米医学誌「JAMA Network Open」電子版(2020年12月22・29日付)に掲載されています。別のがんは、転移ではなく、新たに発症した原発がんです。

 対象は、1992年から2011年にがんと診断されて5年以上生存していた20~84歳のがんサバイバー153万7101人。そのサバイバーが第2の別のがんを発症するリスクと死亡するリスクについて、同じタイプのがんを一般の人が最初のがんとして発症するリスク、死亡するリスクと比較しています。

 まず男性は、4万9065人が第2のがんを発症し、2万8463人がそのがんで死亡。一般の集団と比べると、発症リスクは11%、死亡リスクは45%高い。同様に女性は、6万2348人が発症し、3万4879人が死亡。一般と比較した発症リスクは10%、死亡リスクは33%高くなっています。

 第2のがんを種類別に並べると、発症者数が多いのは男性で肺がん(19%)、前立腺がん(14%)、膀胱がん(11%)、大腸がん(10%)の4つ。女性は、肺がん(19%)、乳がん(17%)、大腸がん(11%)、子宮がん(7%)でした。

 死亡者数については、男性は肺がん(33%)、大腸がん(9%)、すい臓がん(9%)で、女性は肺がん(31%)、すい臓がん(9%)、乳がん(6%)です。

 では、どのがんのサバイバーが第2のがんの発症リスクが高いか。男性は、喉頭がんサバイバーが1・8倍で、ホジキンリンパ腫サバイバーが1・6倍。女性の1位も喉頭がんサバイバーで2・5倍、食道がんサバイバーが1・9倍です。

 第2のがんの死亡リスクはどうでしょう。男性は、胆のうがんサバイバーが3・8倍で、女性は咽頭がんサバイバーで4・6倍です。

 第2のがんで、男女とも喉頭がんの発症リスクが最高なのは見逃せません。喉頭がんは喫煙が強いリスク因子で、その影響が残りやすいことを象徴しています。一般に禁煙によるがんの罹患リスクが生涯まったく吸わない人と同じレベルになるには20年以上。ミクロレベルのがんが1センチ前後に顕在化するまで10~30年かかることから、第2のがんは第1のがんと並行して大きくなっていた可能性もあります。

 論文でも、喫煙関連のがんのサバイバーは、男女とも2つ目も喫煙関連のリスクが高いことを報告。肥満関連や飲酒関連なども、同じタイプになるリスクが高いことが明らかになりました。

 生活習慣が2つのがんに影響しているということは、生活習慣の改善が2度のがん予防に貢献する可能性も十分。人生100年時代、第2のがん予防のためにも、喫煙、肥満、飲酒、どれかひとつでも改善しましょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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