長引くマスク生活で頭痛が悪化…専門医が教える3つの改善策

マスク生活が当たり前となったが
マスク生活が当たり前となったが(C)共同通信社

 マスク生活が当たり前になった今、増えているのが頭痛患者だ。東京女子医科大学脳神経外科頭痛外来客員教授の清水俊彦医師に聞いた。

「コロナ禍のこの1年、特に増えたのが片頭痛患者です」

 主な原因は3つある。まずは、血中の二酸化炭素濃度の上昇だ。マスクは緻密な化学繊維でできているので、マスク内に呼気の二酸化炭素がたまりやすい。それを吸い込んで血中の二酸化炭素の濃度が上がると、二酸化炭素は非常に強力な脳血管拡張因子であるため、脳血管が拡張し、それを取り囲むように存在する三叉神経が刺激を受け、片頭痛が起こる。

 次に、マスクを外してリラックスした状態になると副交感神経が一気に優位になり、脳血管が拡張することが片頭痛の原因になる。前述と同様に、三叉神経が刺激される。

 さらに、ちょっとした刺激で痛みを感じるアロディニア(異痛症)もある。片頭痛の人の多くに認められ、マスクが顔に触れる刺激で頭痛が生じやすくなる。

「ズキズキした頭痛で、吐き気や下痢などの消化器症状もあるようなら、ぜひ次の方法を」

【人のいない場所で、マスクを外して深呼吸】

 二酸化炭素の血中濃度を深呼吸で下げる。

【アメなどブドウ糖を含む食品を少量取る】

 拡張した血管がブドウ糖で収縮する。チョコレートもブドウ糖を含むが、チョコレートの成分であるチラミンが片頭痛を引き起こす可能性があるのでNG。

【マスクを浴室に一晩つるす】

 マスクが湿気を吸い、吸った息が湿り気を帯びるので、口腔内に分布する三叉神経への刺激が弱まる。

■治療が正しく行われているか

 これらと並行して、片頭痛の治療が正しく行われているかも重要だ。片頭痛をひと月に何度も繰り返している人は、頭痛専門医を受診すべき。市販薬の乱用は、薬剤の使用過多による薬物乱用頭痛を引き起こすからだ。

「加えて、片頭痛を長期間抱えていると、神経の炎症が長期間続くことを意味し、脳がちょっとした刺激でも興奮しやすくなる。すると頭の中で雑音が鳴り響くような耳鳴り、立っていられないようなめまい、頭重感、不眠といった深刻な症状が出てくるのです」

 清水医師は頭痛治療の際、脳波を測定し、脳の興奮状態を確認する。片頭痛の人では大抵、脳が過剰な興奮状態にある。

「片頭痛の治療薬の第1選択として痛みを抑えるトリプタン製剤がありますが、脳が興奮状態にある時にトリプタン製剤だけを用いても、片頭痛を抑えられません。私は妊婦など禁忌以外の人にはバルプロ酸という片頭痛予防薬をガイドラインの推奨量の4分の1から半量を処方し、脳の興奮を鎮めます。脳波測定で興奮が鎮まったことが確認できれば、バルプロ酸はやめ、痛みが出た時にだけトリプタン製剤を用いるように指導します」

 バルプロ酸の量をガイドラインより少なめにするのは、推奨量の根拠となる研究が欧米のもので、日本人には多すぎると臨床上で感じているからだ。バルプロ酸は眠気や食欲増進の副作用があるが、量を少なくすることでQOL(生活の質)に影響が出にくくなる。

 今年1月、片頭痛の初の抗体薬(病気の原因となる物質に対する抗体を作り出して薬にしたもの)が製造承認された。「従来薬が効かなかった患者に効果があるのでは」と注目されている。ただし、米国では注射1本約6万円と非常に高価だ。

 清水医師によれば「脳波の確認、バルプロ酸の処方、また片頭痛は帯状疱疹ウイルスが関係しているものもあり、その場合は帯状疱疹ワクチンを接種するなど、従来の方法で頭痛が改善する患者はかなりいる」とのこと。まずは既存の治療法が適切か、見直すところから始めてはどうだろうか。

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