具材たっぷりの食事が認知機能を維持し脳の萎縮を抑制する

具材たくさんの食事を心がけて
具材たくさんの食事を心がけて

 認知症予防の食事として注目を集めているのが、地中海沿岸の国々で伝統的に食べられている「地中海食」だ。では、私たち日本人が食べている和食は? 老化や老年病の予防法を探るための研究「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS―LSA)」に従事する同センター老化疫学研究部の大塚礼部長に話を聞いた。

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 地中海食とは、「季節折々の野菜や果物、豆類、種実などを多く摂取する」「オリーブオイルをよく使う」「魚介類や乳製品、鶏肉を適量、赤身肉を少量食べる」「適量の赤ワインを飲む」といったもの。地中海食に関する研究は多く、欧米では認知機能低下を抑制するという研究結果が出ている。

 一方、日本人の昔ながらの食事内容である「ご飯(主食)、味噌汁などの汁物、魚中心の主菜、野菜が主体の副菜」は、世界的に見て「魚介類の摂取量の多さはトップレベル」「油脂の摂取量は少ない」「塩分摂取量は多い」との特徴を持っている。

「日本人のエビデンスを得るために、1997年に開始されたのがNILS―LSAです。その中で私たちは、食事と認知機能の関連を縦断的に検討してきました」

 そこで出た主な結果が、「DHAの血中濃度が高い(=魚をよく食べている)」「豆・豆製品の摂取量が多い」「乳製品やココナツミルクに多い短鎖脂肪酸・中鎖脂肪酸の摂取が多い」「緑茶を日常的に飲んでいる(1日1杯以上)」「リジンやスレオニンといったアミノ酸摂取量が多い」人は、認知機能が保持されるということだ。

「食品の中で認知機能との関連が特に強かったのが、穀類と乳製品です。穀類摂取量が多いほど認知機能低下リスクが上がり、乳製品が多いとリスクが下がる。穀類では米類の摂取量は認知機能と関連していませんでしたが、うどんやそうめんなど小麦ベースの穀類摂取量が多い人ほど認知機能低下リスクが顕著に上がっていました」

 これは、小麦ベースの穀類が脳に悪いということではなく、うどんやそうめんなど単体(おかずなし)で食べることが問題なのではないか――。そこで大塚部長らは「食の多様性」に着目してさらなる研究を行うと、さまざまな食品群をバランスよく食べている食の多様性が高い人ほど認知機能低下リスクが下がることが分かった。食の多様性の程度を示すスコアを用いて、スコアが高い人から低い人まで4つの群に分けると、きれいな相関が見られたという。

「食の多様性が低かったある人では、朝は菓子パンとコーヒー、昼はレトルトカレーと緑茶、夜は焼きそばとビールという食事でした。一方、高い群に属するある人では、朝は玄米、味噌汁、サラダ、煮物、緑茶、昼はまぜご飯、吸い物、煮魚、煮物、酢の物、オレンジ、カフェオレ、和菓子、緑茶、夜はオムライス、吸い物、サラダ、冷ややっこ、緑茶。サラダや煮物、汁物などは具だくさんで、主食もまぜご飯やオムライスにするなどして具材が多かったのです」

■献立を考えたり買い物に行くことも好影響

 また、食の多様性が低い群では、カルシウムやマグネシウム、亜鉛、ビタミンA、B群といった食事摂取基準で“取った方が良い”とされている栄養素の推定必要量、推奨量を満たさない割合が多かった。

「つまり、食の多様性が高い群は、栄養学的にも良い食生活を送っていた。加えて、多様性のある食事をするには、献立を考えたり、食材を用意したり、料理または購入するといった健康への配慮が必要です。これが認知機能に良い影響を与えていると考えられています」

 大塚部長が最近行った発表では、記憶力と関係する脳の海馬は加齢とともに萎縮するが、「食の多様性が高い人ほど萎縮の度合いが小さい」というものもある。

 冒頭の地中海食も、さまざまな食品を用いた栄養バランスの良い食事だ。

 今後さらなる研究が待たれるとはいえ、認知機能保持のためには、パンとコーヒーや、牛丼とビールといった食事ばかりはやめ、食卓を彩りよく飾る献立を心掛けたい。

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