Dr.中川 がんサバイバーの知恵

血液1滴でOKのがん検査 陽性ではセカンドオピニオンが不可欠

採血のみで90%超の高精度
採血のみで90%超の高精度(C)日刊ゲンダイ

 血液1滴で13種類のがんを早期発見――。夢のような技術が、もうすぐ実用化されそうです。

 血液でがんを調べる検査は、腫瘍マーカーがあります。がんによって増える特定のタンパク質や酵素を調べる検査で、治療の効果を確認したり、再発をチェックしたりすることはありますが、早期発見の目的では使えません。新しい技術は、早期発見に役立つほど精度が高く、注目されているのです。

 がんの人を正しく判定できる確率を感度、がんでない人を正しくがんでないと判定する確率を特異度といいます。新技術の検査で乳がんの場合、感度は97%、特異度は92%です。卵巣がんでは、感度99%、特異度100%に上ります。

 ほかのがんで見てみると、感度と特異度は、膵臓がんは「98%、94%」、大腸がんは「99%、89%」、膀胱がんは「97%、99%」といった具合で軒並み90%を超える高精度です。がん検診として死亡率を下げることが確立されている大腸がんの便潜血検査の感度は70%ほどですから、この検査の感度の高さは特筆ものでしょう。

 この技術のベースにあるのが、遺伝子の働きにかかわるマイクロRNAです。マイクロRNAはがん細胞から分泌され、増殖や転移などにかかわっています。それぞれの臓器にできるがんによって、マイクロRNAの特徴が異なるため、特定のマイクロRNAの組み合わせの違いから、がん患者とそうでない人を高い確率で見分けられるのです。

 国立がん研究センターのグループは、同センターに保管されていた5万3000人の血液を使って分析。その結果、日本人に多い13種類のがんについてマイクロRNAの変動パターンが分かっています。

 具体的には胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝臓がん、胆道がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、肉腫です。

 マイクロRNAを用いたがんの早期発見は、今年度中にも一部の人間ドックや健康診断に組み込まれる見込み。料金は、1回2万円前後とみられます。

 早期発見でかなり有望ですが、過剰診療の問題はあるでしょう。たとえば前立腺がんが見つかった場合です。前立腺がんで悪性度が低ければ、余命に影響しないことが珍しくありません。それなのに、すぐに手術を受けてしまうと、過剰診療の可能性があります。手術はEDのリスクが高いので、年齢によってはそのダメージが見逃せません。

 早期発見はうれしいことですが、がんの種類によっては慎重な対応が必要だということです。マイクロRNA検査でがんが見つかったら、外科ではなく、放射線科や腫瘍内科にセカンドオピニオンを求めることが大切になると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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