女性の不妊治療で何が行われているのか

「体外受精」の実際の治療成績は? 日本は世界で最下位

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 体外受精を希望されるご夫婦の中には、「体外受精でも、できるだけ薬は使いたくありません」とおっしゃる方も少なくありません。もちろん、患者さんのご希望に沿った治療をすることは大事ですが、治療を開始する前に治療方法とその成績を十分に理解した上で治療に進んでいただきたいと思います。

 自然周期(誘発剤をできるだけ使用しない)採卵を希望される患者さんの中には、「誘発剤を使用するとたくさん卵子は採れるが、質が悪くなるのではないか」と心配される方がいらっしゃいます。しかし、実際はそうではありません。誘発剤を使用して複数の卵子が採れても、正常な染色体を持つ受精卵が得られる割合は変わらないと報告されています。つまり、多くの卵子が採れれば採れるほど正常な受精卵が多く得られ、累積妊娠率は高くなるということです。

 もし1回の採卵で複数個の受精卵を得ることができれば、それを1個ずつ移植して1人目を妊娠し、残りの受精卵は凍結しておきます。そして、次のお子さんを希望されるときに凍結した受精卵を融解して移植し、2人目、3人目のお子さんを得ることが可能となるのです。米国ではこれは「one and done approach」と呼び、複数個卵子を獲得できる患者さんに対しては、誘発剤を使用しない自然周期よりも、積極的に薬剤を使用して複数の卵子を獲得できるような治療方法が推奨されています。

■凍結した方が妊娠率は高くなる?

 採卵した周期に移植することを「新鮮胚移植」、いったん受精卵(胚)を凍結して別の生理周期で移植することを「凍結融解胚移植」と呼びます。食品などと同様に「凍結していない新鮮な受精卵の方が治療成績は良いのでは?」と思われる方が多いと思いますが、実はそうではありません。

 日本産科婦人科学会の統計では、凍結融解胚移植の妊娠率は約35%であるのに対して、新鮮胚移植の妊娠率は20%程度しかありません。複数の卵子が発育している採卵周期ではホルモンが過剰なため着床環境が乱れています。また、ガラス化法と呼ばれる現在の受精卵の凍結技術は非常に優れていて凍結・融解による受精卵へのダメージがほとんどありません。このため、採卵とは別の周期で着床環境を整えて移植する凍結融解胚移植の方が妊娠率は高くなるのです。

 体外受精はタイミング法や人工授精よりはるかに確実で有効な治療ではありますが、体外受精をすれば誰でも妊娠できるというわけではありません。採卵された女性の年齢別に見てみると、35歳以下では40~50%ある妊娠率が、40歳では25%と年齢が上がるにつれ徐々に低下していきます。逆に年齢が上がると流産率が増え、実際にお子さんが得られる割合(生産率)は体外受精を行っても40歳を過ぎると10%以下になってしまいます。

 世界の生殖医療のデータを収集しているICMARTの報告では、日本は、採卵周期数は世界一でしたが、生産率は最下位でした。「日本の生殖医療技術は海外より劣っているのか」と言いたくなりますが、そういうわけではありません。

 これは、日本で体外受精を行っている患者さんは40歳以上の方が半数を占め、年齢が高くなっていることが理由の1つに挙げられます。海外で体外受精を行っている方の8割は40歳以下で、逆に40歳を超えると自分の卵子ではなく、若い女性の卵子をもらう、いわゆる卵子提供が広く行われています。また日本では、薬は使わない自然周期での採卵が多いということが2つ目の理由です。自然周期では妊娠率が低く、海外ではほとんど行われておらず、英国の診療ガイドラインでは「自然周期での採卵は推奨しない」と明記されています。

 35歳を過ぎたら体外受精を積極的に考え、自然周期にこだわらず最適な排卵誘発方法で体外受精を行うことが妊娠するための鍵となるのです。

小川誠司

小川誠司

1978年、兵庫県生まれ。2006年名古屋市立大学医学部を卒業。卒後研修終了後に慶應義塾大学産科婦人科学教室へ入局。2010年慶應義塾大学大学院へ進学。2014年慶應義塾大学産婦人科助教。2019年那須赤十字病院副部長。2020年仙台ARTクリニックに入職。2021年より現職。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。

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