Dr.中川 がんサバイバーの知恵

東ちづるさんは内視鏡で切除 胃がんのセカンドオピニオンは消化器内科で

東ちづるさん
東ちづるさん(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナ禍の拡大で受診を控える動きが問題となっています。女優の東ちづるさん(61)もそうだったようです。報道によると、胃潰瘍だと思い込んでギリギリまで我慢していた胃の痛みの正体は、胃がんだったといいます。

 東さんが症状を感じたのは昨年夏ごろ。20代にも十二指腸潰瘍で同じような痛みを感じていたことから、「ストレスと生活の乱れで潰瘍ができている」と自己判断。受診によるコロナ感染も心配され、受診を先延ばしにしていたそうです。

 そうしているうちに11月になり、黒色便が。それも治まると、嘔吐が重なりながらも、受診をためらっていると、ご主人に顔の白さを指摘され、「さすがにヤバい」と思い、受診を決めたといいます。

 結論からいうと、診断は胃がんだったわけですが、治療法の選択過程にも重要なポイントがありました。

 診断当初、医師に提案されたのは、胃の2分の1切除。東さんは何度も食い下がり、「(手術してみて)切るほどじゃなかったという確率はどれくらいですか?」と質問され、医師の回答は「90%」。それで切除じゃない方法にしようと思われ、最後の最後に提案された「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」を選択されたとか。その前には、セカンドオピニオンも受けたといいます。

 この治療は、外科でも行っていますが、中心は消化器内科。内科医が行える手術の限界を探る治療といっていいかもしれません。

 胃や大腸の壁は、粘膜層、粘膜下層、筋層という3層構造で、がんは最も内側の粘膜層から発生。早期がんの中でもさらに早期の病変なら、内視鏡でカメラと一緒に治療器具を挿入して、消化管の内腔から粘膜層と一緒に粘膜下層を剥離して、病変を一括切除するのが、この治療法です。

 切除といっても、外科医がメスでお腹を開いて行う切除とは全く違います。当然、肉体的なダメージは少ない。

 早期の胃がんや大腸がんなどで外科医にメスで行う切除を勧められたら、消化器内科医にセカンドオピニオンを取るのが無難でしょう。そうすると、ESDを提案されるかもしれません。ESDは胃がん、大腸がん、食道がんで保険適用になっています。

 検査や受診の自粛によって、がん研有明病院では昨年、胃がんの治療が一昨年に比べて3割減少。最も早期のステージ1Aは半減しています。東さんも受診がもう少し遅れていたら、ESDはできず、開腹による切除になっていたかもしれません。

 気になる症状があるときは、ためらわず受診すること。そして、胃がんや大腸がんなど消化器外科で提案された治療法に疑問があるときは、消化器内科でセカンドオピニオンを取ること。この2つはぜひ頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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