進化する糖尿病治療法

苦労しないで痩せられる? GLP-1ダイエットは是か否か

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「痩せる薬」として知られるのが、2型糖尿病の治療薬のひとつ「GLP-1受容体作動薬」です。

「GLP」「ダイエット」とインターネットの検索ワードに打ち込むと、GLP-1受容体作動薬を使ったダイエットメニューを掲げるクリニックがいくつもヒットします。目立つのは、「食事制限なし」「運動なし」「自然に痩せられる」といった文言。「痩せたい! でもつらいことは避けたい」と思う人には、夢のようなダイエットですよね。飛びつきたくなる気持ちも分かりますが、その前に、ぜひ次のことを知って欲しいのです。

 まず、2型糖尿病の治療以外でGLP-1受容体作動薬を使うことに対して、日本糖尿病学会は「やめるべき」という見解を発表しています。一部のGLP-1受容体作動薬については、健康障害リスクの高い肥満症患者への臨床試験が実施されていますが、その結果はまだ出ていません。そのため、美容・痩身・ダイエットなどを目的とする「適応外使用」に関して、2型糖尿病ではない日本人の安全性と有効性が確認されていないのです。

「やめるべき」という立場は、GLP-1受容体作動薬を製造・販売している製薬企業4社も同様で、「本来の効果が見込めないだけでなく思わぬ健康被害が発現する可能性も想定されます」と強調しています。

 日本糖尿病学会も製薬企業もダイエット目的の使用に反対なのに、どうしてGLP-1受容体作動薬をダイエット目的として使用しているクリニックがあるのだろう? そう疑問に思った方もいるかもしれません。

■食欲を抑え、体重減少を期待できる薬だが…

 それについて述べる前に、GLP-1受容体作動薬がどういう薬なのか、説明しましょう。

 以前にも紹介しましたが、もともとは私たちの体にあるホルモン「GLP-1」を体外から補う薬です。

 GLP-1は消化管ホルモンの一つで、膵臓にあるGLP-1の鍵穴(受容体)と結合してインスリンを分泌し、血糖値を下げる働きをします。この薬の大きな特徴が、食欲を抑え、体重減少を期待できる点です。

 肥満または過体重の2型糖尿病の成人を対象に行われたGLP-1受容体作動薬の臨床試験では、この薬が空腹感を軽減して満腹感を高め、食事量・カロリー摂取量が減り、体重が減少するという結果が出ました。

 現在、世界で使用されているGLP-1受容体作動薬には、多くの種類があります。日本で2型糖尿病治療に対して厚労省の承認を受けているのは、ビクトーザ、バイエッタ、ビデュリオン、リキスミア、トルリシティ(いずれも商品名=以下同)といった複数の自己注射薬、リベルサスという経口薬になります。

 一方、サクセンダというGLP-1受容体作動薬があり、ビクトーザと同じ成分の自己注射薬ですが、対象疾患としているのは糖尿病ではなく、BMI27以上で肥満関連疾患を持つ人、BMI30以上の肥満症の人です。

 サクセンダは日本では承認されていませんが、欧米や韓国などでは承認されています。ダイエット目的でGLP-1受容体作動薬を用いているクリニックでは、「肥満治療薬として世界各国で承認されている」ということから、サクセンダなどを自由診療で出しているのでしょう。

 日本で未承認の薬を自由診療で処方することは違法ではありません。ただ、私はやはり「日本で承認されていない=日本人における安全性と有効性が担保されていない」ということを重視してほしいと考えています。

 さらには、承認されている海外においても、対象がかなりの肥満者であることにも留意してほしい。ちょっと太っているくらいの人が、安易に使う薬ではないということです。

 肥満は長年の生活習慣によって起こったもの。薬で一時的に痩せても、生活習慣を見直さなければ、痩せた体を維持できない。肥満でない方がさらに体重低下させた場合の副作用は一般には確認されていません。高額な費用をかけて、製薬企業も賛成していない方法を試すのは……。私は、決してお勧めできません。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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