新型コロナワクチンの疑問に答える

新型コロナウイルスの「経口ワクチン」は作製が可能なのか

ポリオは経口ワクチンで有効性が認められたが
ポリオは経口ワクチンで有効性が認められたが(C)ロイター/Sipa USA

 国民の大半がワクチン接種したイスラエルは、「デルタ株」によって感染者が再び増加している。今月1日から60歳以上を対象にした3回目のワクチン接種を始めたが、近く経口ワクチンの臨床試験も開始される見通しだ。

【Q】新型コロナウイルスの「経口ワクチン」は作製が可能なのか?

【A】「アストラゼネカ社と同じウイルスベクターワクチンや弱毒化生ワクチン、つまり一部遺伝子を除いたウイルスを使用し、投与するワクチンなら作製可能です。現在、経口ワクチンは4種類ほど存在し、ポリオ、ロタウイルス、腸チフスなど腸管由来の感染症には、胃を通って吸収されるので有効性が認められています。ただし、コロナは呼吸器感染症のため、経口ワクチンの開発はハードルが高い。胃の消化酵素がスパイクタンパク質を分解してしまう恐れがあるのです。さらにポリオなどと同じく、弱毒化したワクチンとはいえ、生きているウイルスが入ってしまう分、体内でウイルスが先祖返りして変異型に変わってしまう危険性もあります」

 実際、世界でいくつかのメーカーが試みているが、第Ⅲ相の臨床試験が終わったものはない。

 現実的なのはスプレーによる「経鼻ワクチン」の方だ。カナダのメディカゴ社が植物を精製した「VLPワクチン」の臨床試験を進めており、承認も間近と報じられている。

【Q】新型コロナのワクチンは3回以上の接種が必要になりそうだ。BCGや麻疹のように子どものころに打って終わるワクチンとの違いは?

【A】「たとえばBCGは結核菌に対するワクチンですが、結核菌はほとんど変異をしません。増殖も速くなく、10~15年は免疫が続くため、免疫力が低い子ども時代に打てば、30歳くらいまで予防効果があります。一方、RNAウイルスである新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは変異が非常に多いため、一度免疫を付与しても新しく変異したものが入ってくると対応できない。だから、長く付き合う感染症となるのです。先述の経口ワクチンのように新型コロナウイルスワクチンでも、弱毒化生ワクチンの臨床研究は続いています。うまくいけばBCGと近い強力な効果が期待されますが、一方で弱毒化ワクチンウイルスによるリスクも懸念されています」

【Q】過去、医療現場ではワクチンが効かない感染症の出現時に、抗生物質を試してきた歴史があるが、新型コロナではどうなのか?

【A】「抗生物質は細菌性の感染症に有効ですが、インフルエンザなどのウイルスには効きません。ただし、ウイルスに感染することで体が弱り、別の細菌に感染して状況が悪化することがあるため、細菌性、ウイルス性問わず感染症の予防手段として投与されることがあるのです。有効なワクチンが作れないとき、医療現場では、一刻を争う状況をしのぐために今回のような新型のウイルスなどの微生物を試験管内で増殖し、抗生物質を投与、増殖が止まれば動物実験をして安全性が認められたら、抗ウイルス薬剤として、人体に使用していきます。とくにエイズは変異が著しくワクチンでは対応できなかったのですが、いくつかの抗ウイルス薬を組み合わせる治療法が成功しました。現在は不治の病ではなくなっています」

奥田研爾

奥田研爾

1971年横浜市立大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学遺伝学教室、ハーバード大学医学部助教授、デューク大客員教授、スイスのバーゼル免疫研究所客員研究員として勤務。2001年横浜市立大学副学長、10年から名誉教授。12年にはワクチン研究所を併設した奥田内科院長。元日本エイズ学会理事など。著書に「この『感染症』が人類を滅ぼす」(幻冬舎)、「感染症専門医が教える新型コロナウイルス終息へのシナリオ」(主婦の友社)、「ワクチン接種の不安が消える コロナワクチン114の疑問にすべて答えます」(発行:日刊現代/発売:講談社)のほか、新刊「コロナ禍は序章に過ぎない!新パンデミックは必ず人類を襲う」(発行:日刊現代/発売:講談社)が8月に発売される。

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