前回、がん治療の進化に伴って心臓に障害が起こるケースが増えていることについてお話ししました。高齢化が進む日本では、今後、がんと心臓疾患の治療を並行して行う患者さんがますます増えるのは間違いありません。
ですから、患者さんが納得のいく治療を受けるためには、がんの専門科と心臓疾患を診る心臓血管外科や循環器内科がしっかり連携している医療機関かどうかを見極めることが重要です。
たとえば、心臓にトラブルを抱えている患者さんに早期の胃がんが見つかったとします。この場合、負担が大きくなる外科手術ではなく、内視鏡治療であれば実施することができます。ただ、その患者さんが血液をサラサラにする抗凝固薬などを服用しているなら、内視鏡でポリープを切除するだけでも薬をいったん止めなければなりません。出血しやすくなって手術や合併症のリスクがアップするからです。
心臓疾患とがんを抱えている患者さんの治療には、こうしたマネジメントが必要になってきます。以前は、心臓疾患などで抗凝固薬を服用している患者さんは、積極的に手術をしてもらえないようなケースもありましたが、いまはガイドラインがある程度しっかり出来上がっているので、そうした懸念はなくなってきています。だからこそ、医療者側のマネジメントが重要です。マネジメントを間違えると、患者さんが命を落とす危険もあるのです。
心臓疾患とがん、両方の治療を適切に行うためには、それぞれの専門医に高いレベルの「コモンセンス=常識」が求められます。自分の専門の領域について勉強しているだけでは不十分で、いわゆる生活習慣病のガイドライン、標準的な治療についてIT情報レベルまでは精通していないといけません。
さらに、がんの専門医でも心臓について、心臓の専門医でもがんについて、治療のスタンダードはどんなものなのかくらいは把握しておく必要があるのです。がんの治療、あるいは心臓疾患の治療を無事に終えたとしても、その治療がほかの病気に影響して、患者さんのQOL(生活の質)がガクンと下がってしまうケースもあります。そうなれば、なんのために治療したのかわからなくなってしまいます。
たとえば、食道がんや胃がんで食べることができないといった場合であれば、がんのある臓器を摘出して再建するので、治療する前よりもQOLは改善します。しかし、肺がん、肝臓がん、子宮がんといった場合は、臓器を摘出するだけなので、治療後はその臓器の機能だけが落ちることになります。そうした状態で、トラブルを抱えている心臓や不整脈の管理がしっかりできないと、それで命を落とす場合もあります。高齢化が進み、複数の病気を抱えている患者さんが増えているからこそ、医師は自分の専門領域以外の病気についてもしっかり勉強しなければならないのです。
■他科の患者は放り出す医師も…
ただ残念なことに、医師の中には「それは自分の専門じゃないから……」と、前もって治療を投げてしまう人がいます。また、総合病院や基幹病院といわれる医療機関の中にも、ほかの診療科との連携がほとんどない施設があるのも事実です。循環器内科で心臓疾患を診てもらっている患者さんにがんが見つかり、同じ病院のがん専門科でがん治療を受けて心臓の管理に問題が出たとしても、がん専門科は循環器内科には相談せず、「ほかの科の治療について自分たちは関与していませんから」などと、放り出してしまうケースがあるのです。
そうした医師や病院はとても信用できませんし、質が低いと判断できます。すぐにほかの医療機関に移るべきといえます。
患者さん側がその医療機関は専門科同士の連携体制がきちんと整っているかどうかを見極めるのは簡単とはいえませんが、ひとつの目安として、「JCI」をはじめとした外部による病院機能評価の認証を受けているかどうかをチェックしてみる手があります。「患者安全」や「高品質な医療」が提供されているかどうかの判断基準になります。
医療安全がきちんと認められている病院では、たとえば手術を控えて入院したとき、普段服用している薬をいったんすべて病院が預かり、薬剤師の指導の下で適切な薬を処方し直すのが一般的です。そのうえで、手術のタイミングに合わせて薬を減らすなどの管理を行います。それが、「いままで飲んでいた薬は自分で管理してください」というような病院は、他科との連携体制が整っていない可能性が高いといえるでしょう。