Dr.中川 がんサバイバーの知恵

さいとう・たかをさんが永眠 膵臓がんは尾道方式ならステージ0でも発見

さいとう・たかをさん
さいとう・たかをさん(C)日刊ゲンダイ

 ギネス記録を更新している「ゴルゴ13」などで知られる漫画家さいとう・たかをさんの命を奪ったのは、すい臓がんでした。享年84。作品は、スタッフが協力し、今後も継続するそうです。さいとうさんの思いが受け継がれるのは、何よりでしょう。

 さて、すい臓がんは、がんの中でも難治がんとして知られます。すい臓の周りには、肝動脈や腹腔動脈など生命を維持するために重要な血管があるため、がんが血管の近くにあったり、血管を巻き込むように広がっていたりすると、手術が難しい。

 すい臓がんの予後を占う上では、手術ができるかどうかがとても重要。そこで、手術ができるかどうかの判断基準があります。「切除可能」「切除可能境界」「切除不能(局所進行)」「切除不能(遠隔転移)」の4つで、前述の血管に浸潤するケースは「切除不能(局所進行)」です。

 手術可能でも大掛かりで、たとえばすい臓と胆管、胆のう、十二指腸に加え、周りのリンパ節や神経、脂肪も一緒に切除する術式だと、手術時間は8時間ほど。すい臓と腸、胆管と腸、胃と腸をつなげる消化管の再建も必要で、体の負担もとても大きい。

 こうした事情から、少しでも早期に発見することが大切です。すい臓がんもほかのがんと同様に早期は自覚症状に乏しく、進行がんで発見されることが多かったのですが、最近は早期発見の方法が確立されつつあるのは朗報でしょう。

 それが、危険因子を2つ以上持つ方には積極的に超音波検査を受けてもらうこと。広島の尾道の医療機関が連携して見いだされたため、「尾道方式」と呼ばれます。

 具体的なリスクは、糖尿病、喫煙歴、すいのう胞、慢性すい炎、過剰飲酒(日本酒換算で1日3合以上)、肥満(特に30代)、すい臓がんの家族歴、慢性B型肝炎、胃潰瘍、ピロリ菌感染、歯周病の11項目です。

 このリスクの掘り起こしで超音波検査を導入した結果、尾道ではすい臓がんの5年生存率が20%に。全国平均は7.5%ですから特筆すべき成果です。5年生存率が80%とされる1センチ以下のステージ1や超早期のステージ0が相次いだことが、生存率の押し上げに一役買いました。

 意外かもしれませんが歯周病があると、ない人に比べてすい臓がんのリスクが2~3倍高まることが分かっています。リスクが2つ以上ある人は、すい臓がんの予防に消化器科などで超音波検査を受けるとよいでしょう。すい臓がんもステージ1までに見つければ、再発リスクは少なく、根治が期待できますから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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