進化する糖尿病治療法

だだちゃ豆シーズンになると血糖コントロールが悪くなるのは…

ビール片手にどんぶり1杯のだだちゃ豆を…
ビール片手にどんぶり1杯のだだちゃ豆を…(C)PIXTA

 私は普段は国際医療福祉大学三田病院で患者さんを診ていますが、週1回、山形県鶴岡市の病院で診療を行っています。

 山形県で診療を始めて、改めて気付いたことがあります。それは、その土地柄の特産物が血糖値やHbA1cの上下に関係していることがあるという点です。

 鶴岡市の在来野菜に「だだちゃ豆」という枝豆があります。これは、鶴岡市でしか栽培されない特産品で、独特の香り、コク、強い甘味が特徴。噛めば噛むほどおいしく、「これを食べちゃうとほかの枝豆は食べられない」という人も。そもそも枝豆自体、食べ始めると止まらなくなってしまう類いの食品だと思うのですが、だだちゃ豆は本当に手が止まらないとか。

 患者さんに、9月になるとHbA1cの数値が高くなる方がいました。それまではコントロールできているのに、です。

 HbA1cは本来、夏に下がりやすく冬に上がりやすいので、「何か生活で変わったことはありました?」と聞いたのですが、「うーん、特にないと思うんですが……」との答えです。

 しかし、よくよく話を聞いて分かりました。患者さんの身内にだだちゃ豆の生産者がいて、8月半ばのシーズン時、大量にだだちゃ豆をくれるそうです。

 その患者さんはだだちゃ豆が大好き。自分でもスーパーで見かけたら即購入し、だだちゃ豆が手に入る間は、毎晩、どんぶり1杯ほどのだだちゃ豆をビール片手に1人で食べてしまうそう。「一年のうちで一番楽しみな時期なんです」と患者さんは言います。

 枝豆はタンパク質が豊富で、食物繊維、ビタミンB1・B2、葉酸、鉄、カリウムなどの栄養素が含まれているので、普通に食べている分には問題ありません。でも、その患者さんの「どんぶり1杯」は明らかに食べすぎ。だだちゃ豆のシーズンにはHbA1cが上がると分かってからは、シーズン前になると注意を促すようにしました。

 幸いなことに、だだちゃ豆のシーズンはとても短い。そこで患者さんは、その時期だけは存分にだだちゃ豆を楽しむ。その代わり、ほかの糖質の食品の量を減らし、ビールも我慢。さらに運動量を少し増やすことに。結果、HbA1cを保てるようになりました。

 同じ枝豆つながりですが、こんな話を聞いたことがあります。青森県の津軽地方で栽培されている在来種に「毛豆」があります。その名の通り、茎、葉、サヤなどが金茶色の細かな毛に覆われ、大粒で甘くてコクがあり、栗のような食味。だだちゃ豆と同様、「毛豆を食べちゃうとほかの枝豆は食べられない」と断言するファンもいるそうです。

 この毛豆をお取り寄せで食べて以来、その味に魅せられた大阪出身の方が、毛豆シーズンの秋、津軽の知人宅を訪れた時のこと。振る舞ってくれた茹でたての毛豆は言葉を失うほど絶品。一方ですごく驚いたのが、毛豆に使う塩の量でした。大阪出身の方にとっては想像を超える量で、「県外の人だから、塩の量はこれでも少なめにしているんだけど」と言われたそうです。

「青森県の人は高血圧の人が多いとよくいわれますが、枝豆ひとつとっても、使う塩分量が私とは全然違うんだなと思った」と話していました。

 山形で診ている患者さんの話に戻りましょう。患者さんには農家の方もたくさんいます。「スイカが取れすぎて」「桃がたくさんあって」とシーズン時、収穫したものの傷があるなどで売り物にならなかった果物を、たくさん食べる方も珍しくありません。

 私たちにとってはおいしい果物をたくさん食べられるのは実に羨ましいことですが、果物の糖質は、気をつけて取らないと容易に血糖値とHbA1cを上げてしまいます。実際、そういった患者さんたちは、果物の食べすぎでHbA1cが急に上昇することがままあります。

 とはいえ、大切に育てた果物を「食べないでください」とは言えません。とにかく一度にたくさん食べることは避けてもらうよう、患者さんごとに実現可能な方法を具体的に提案するように心掛けています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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