Dr.中川 がんサバイバーの知恵

千葉大で乳房誤切除の医療ミス…検査結果は必ず報告書をもらっておく

診察の時はメモを取る
診察の時はメモを取る(C)PIXTA

 残念な医療ミスが報じられました。千葉大医学部付属病院で、左乳房に乳がんが見つかった50代女性に、両方の乳房を切除する医療ミスがあったのです。

 摘出後に病理検査を行い、右の乳房は切除する必要がなかったと判明したといいます。

 報道によると、担当医は2017年9月、週1回勤務していた別の病院で女性の左乳房の病理検査で乳がんと診断。その医師は千葉大に紹介し、どちらの病院でも一人で診察したそうです。

 画像検査で右の乳房にも影が判明。病理検査をしたところ、結果は「悪性所見なし」でした。ところが、担当医は患者に結果を説明する際、がんと診断された左乳房の病理報告書を右のものと思い込み、「右乳房も乳がんでした」と告知したといいます。報告書に明記されていた部位の確認も怠ったそうです。

 その医師は、左乳房の病理標本を右のものとして病理部に提出。これらのミスが重なり、その年の12月に両方の乳房が切除されてしまいました。乳腺専門医のベテランだそうですから、唖然とします。

 その後、患者と家族に謝罪。示談が成立し、医師はすでに退職したそうです。

 千葉大病院では、3年前にもCT検査結果の見落としがクローズアップされました。主治医が画像診断の報告書を見落としたことががん患者9人に発覚。そのうち死亡した2人について、同病院は「最初の検査後に治療していれば、死亡していなかった可能性がある」と認めていました。

 同じ年には、横浜市立大病院や兵庫県立がんセンターなどでも、CTの見落としが相次いでいます。こうした医療ミスはあってはなりませんが、時々起きているのが現実です。

 命が失われるのは最悪のケース。切除する必要のない臓器や組織を切除されるのもつらいでしょう。では、このような悲劇を未然に防ぐには、どうするか。医師が書類をきちんとチェックするのはもちろんですが、患者としてもできることがあります。

 それが、画像診断や病理検査の報告書をもらうこと。内科で血液検査を受けると、血糖値や肝機能などの数値が記された検査結果をもらうはず。それと同じで、画像診断や病理検査のリポートも受け取ることが大事だと思います。今回の誤切除についても、病理リポートをもらっておけば、防ぐことができたかもしれません。

 それらの報告書は日本語で書かれることがほとんどで、分からない点は主治医に確認するとよいでしょう。医師の説明を受ける時は、患者はメモを取るクセをつけるのもいい。患者もある程度、治療に参加するつもりで、情報を理解する姿勢が重要です。

 採血結果も画像診断も病理検査の報告書も、医療データは患者のもの。疑問点を確認するのに遠慮は無用です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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