「痩せるために、お肉は食べないようにした方がいいですよね」とおっしゃる糖尿病患者さんが時々います。
糖尿病に肥満は禁物。摂取カロリーを減らして肥満を解消しなくてはなりません。でもそれは、お肉NGということではない。
お肉は貴重なタンパク質源で、筋肉量保持に重要です。避けるべきは、お肉だけを食べるなどの偏った食事です。実際、糖尿病と診断されたばかりの人の食生活を聞くと、「朝食抜き、昼は牛丼、夜は居酒屋で飲んだ後にラーメン」といったように、食事のほとんどが動物性食品と炭水化物で占められ、野菜、果物、大豆食品、海藻、きのこ類はほとんど食べていない……ということも少なくありません。
特に糖尿病患者で高齢者は、腎臓の機能が低下していなければ、意識してタンパク質を取った方がいい。糖尿病が筋肉量の低下をもたらし、また筋肉量が低下すると糖尿病のリスクを高めるという双方の関係が複数の研究で報告されているからです。
また、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少。身体機能低下を招く)のリスクを増やしてしまいます。
広島大学の研究グループが、興味深い研究結果を発表しています。それは、1998年から2006年に「ゆうぽうと健診センター」が関東で実施した65歳以上6133人の健診データを基に、糖尿病と筋肉量低下の関係を評価したもの。
筋肉量を知るために利用したのが、筋肉で産生される老廃物「血清クレアチニン」の量です。すると、65~69歳、70~74歳、75歳以上のすべての群で、糖尿病の人はそうでない人と比べてクレアチニン値が低かった。これは、筋肉量が低下していることを示しています。
健康な人より意識してタンパク質を取らなければならない理由
では、なぜ糖尿病で筋肉量が減るのでしょうか? そのメカニズムを2019年、神戸大学の研究グループが世界で初めて明らかにしました。
研究グループは、マウスを使って実験。マウスを糖尿病にすると、筋肉量の減少に伴い、筋肉の減少を促すタンパク、KLF15が増え、筋肉だけでKLF15をなくしたマウスでは、糖尿病になっても筋肉量が減らないことを発見。つまり、糖尿病でKLF15の量が増え、それが筋肉減少に関係していることを突き止めたのです。
次に調べたのは、どのようなメカニズムでKLF15が増えるのか? すると、「健康な人では、WWP1というタンパクが、別の小さなタンパクであるユビキチンをKLF15に結合させ、KLF15の分解速度を速める。しかし、血糖値が上昇するとWWP1の量が少なくなり、KLF15の分解が抑制され、筋肉で蓄積して量が増え、筋肉減少につながる」ということが分かったのです。
残念ながら現段階では、KLF15の働きを弱める薬や、WWP1の働きを強める薬はありません。食事で意識してタンパク質を摂取し、運動で筋肉量を上げるしかない。特に高齢者は誰もが筋肉量が低下するので、「糖尿病+高齢」という2つの筋肉量減少の要因を持っている人は、毎回の食事で意識してタンパク質を取る必要があります。
もし、「食べられる量が減ってタンパク質も十分に取れない」「糖尿病で心筋梗塞、脳卒中、心不全などを起こしていて活動量が少なくならざるを得ない」という人は、タンパク質が粉末状になったプロテインを活用するのもいいでしょう。適度の運動と組み合わせるとさらに効果的です。
ただし、前述の通り、糖尿病で腎機能が低下している人は、タンパク質の取り方には注意が必要です。タンパク質の摂取量が制限されるので、どうタンパク質を摂取するか、主治医に相談してください。