進化する糖尿病治療法

低血糖は最初が肝心 繰り返すと重症化して気付きにくくなる

事故のリスクも高まる(写真はイメージ)/
事故のリスクも高まる(写真はイメージ)/(C)PIXTA

 血糖値が正常範囲以下にまで下がった状態を「低血糖」と言います。一般的に血糖値が60㎎/デシリットルを下回ると、異常な空腹感、体のだるさ、動悸、冷や汗、ふるえ、不安感などが生じ、45㎎/デシリットルを下回ると、眠気、強い脱力感、めまい、強い疲労感、集中力の低下、混乱、言葉が出ない、物が見えにくい、時間や場所がわからない、元気がない、不安、抑うつなどが生じます。

 さらに30㎎/デシリットルより血糖値が低くなると、意識朦朧、異常行動、けいれん、深い昏睡などを生じ、対処が遅れれば命に関わります。意識が朦朧とするので、危険な場所にいたり車を運転していたりすると、事故のリスクも高まります。

「初めて夫が低血糖を起こしたのを見た時は、本当に驚いた」と話すのは、糖尿病歴3年の夫を持つ女性。その日、女性は会社を出るのがいつもより遅くなっていたそうです。在宅勤務の夫には連絡をいれていたので、何かを食べていると思っていた。

 ところが自宅に帰り、夫の仕事部屋に様子を見に行くと、夫がぐったりと椅子にもたれかかっており、何も話せない状態。慌てて救急車を呼んだそうです。

 後ほどわかったのは、夫は仕事に没頭していて食事時間を過ぎているのに気が付かず、低血糖を起こしてしまったということ。低血糖を起こしてそれほど時間がたっていないときに女性が帰宅したため、大事には至りませんでした。

■対処が遅れれば命の危険

 低血糖には起こしやすいタイミングがあります。

 まず、食事の量が少なかったり、食事の時間が遅れたりしたとき。次に、運動量が多すぎたり、空腹時に激しい運動を行ったとき。さらに、インスリン注射量が不十分だったとき。

 これ以外で私が特に注意しているのは、新しく糖尿病の薬を追加した時です。

 また、薬の中には低血糖を起こしやすいタイプもあるので、その場合も注意が必要です。低血糖らしき症状を感じたら、速やかにブドウ糖を摂取し、15分ほど経っても改善しなければ、もう一度ブドウ糖を摂取する。どういう症状が低血糖なのか、その危険性、そしてもしもの時の対策を、患者さんに何度も伝えるようにしています。

 低血糖は最初にしっかりと対処すれば、過度に恐れる必要はありません。

 低血糖を心配するあまり、自己判断で薬の量を減らす患者さんが時折いますが、血糖コントロールの不良につながりかねないので、主治医と相談した上にしてください。

「最初にしっかりと対処すれば」と言いましたが、低血糖は起こさないことに加え、繰り返さないことも非常に重要になります。繰り返すと、低血糖に気が付きにくくなり、ブドウ糖の摂取が遅れ、自分では対処できないようになるからです。これを「重症低血糖」と言います。

 何度も低血糖を起こしている人は、重症低血糖を起こした時の対処法について、医師と十分に話し合っておくべきです。重症低血糖の場合、自分でブドウ糖を摂取できませんから、家族や同僚など身近な人の協力をあおぐことになります。

 具体的には、血糖値を上げるホルモン(グルカゴン)を投与してもらう。最近では点鼻粉末タイプのものも出てきており、より簡便に使用できるようになっています。できれば血糖値を測定することです。こちらも最近では、市販で購入できるタイプの持続血糖モニター装置もあります。迷ったりした場合はすぐに救急車を呼んでもらいましょう。

 知識なしにいきなりは無理ですから、どういう症状が低血糖なのか、なぜ速やかな対処が必要なのか、グルカゴンの投与方法、グルカゴンの保管場所、点鼻薬の使用の仕方など、身近な人に日頃からしっかり伝えておくようにしてください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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