独白 愉快な“病人”たち

「本当に怖かった」…元女子バレー日本代表・大友愛さん 9月に“めまい”との闘い4時間

大友愛さん
大友愛さん(提供写真)
大友愛さん(元バレーボール選手・タレント/39歳)=良性発作性頭位めまい症

 あんなにひどいめまいは初めてでした。天井がぐるぐる回るのではなく自分が回転している感覚で、ひと言でいえば「本当に怖かった」。めまいなんて休めば治ると思われがちですけれど、今回「良性発作性頭位めまい症」を経験して、めまいで長く苦しむ人もいると知りました。

 それは今年9月下旬の午後3時ごろに起こり、約4時間続きました。

 もともと三半規管が弱いことは自覚していました。たとえば車などの乗り物に酔いやすかったり、人混みなどのゴチャゴチャしたところを見るとクラクラすることがしょっちゅうありました。

 その日は朝からなんとなく気持ちが悪くて、車を運転しながら「疲れているな~」と思っていたんです。

 帰宅して午後3時、頭がズンッとする変なめまいがあったので「これは寝たほうがいいな」と思いました。過去に一度同じようなことがあったときに、横になったらいつの間にか治っていたので、同じパターンで治ると思ったのです。

 でも、今回は違いました。横になったら急にボワ~ッとして耐えられないくらいのめまいと吐き気に襲われたのです。這いつくばってトイレに行って吐くと少しすっきりして、一瞬めまいも治まるのですが、しんどいから横になろうとすると、またぐぁんぐぁん回りだす。横になるとダメなんだとわかって、座っていようと頑張るのに、すごく回転している状態なので気づくと倒れるように横になってしまう……その繰り返しでした。

 まるで大波にのまれているような激しい回転の中、何度も吐き、しまいには胃液しか出ない状態になりました。目をつぶるとさらに回るので目を開けたまま、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と自分に言い聞かせ、いつまで続くのかわからないめまいと闘いました。

 めまいが少し治まったころには夕飯時になっていました。買い物にも行けなかったので、家にあったマカロニでグラタンを作り、夫には「そんなに具合が悪かったなら呼んでくれればよかったのに」と言われました。実際、子供部屋で勉強を教えているのはわかっていたし、呼べるものなら呼びたかったです。でも、その時はパニック状態で声も出ませんでした。

■フォロワーの後押しで病院を受診

 少し落ち着いてから、SNSでめまい体験の一部始終を発信したら、後輩から「私も同じことがあり、立ち上がれなくて救急車を呼びました」と連絡がありました。そのほかにも、「私もなったことあります」といったメールをたくさんもらい、何十人ものフォロワーさんに「絶対に病院に行ってください」と勧められたんです。

 私は、大体のことは一人でなんでも乗り越えられるタイプで、症状が治まれば病院には行きません。夫から言われたくらいじゃたぶん行かなかったと思います。でも、今回は皆さんの後押しがあって、病院に行こうと思えました。フォロワーの皆さんには本当に感謝しています。

 翌日、耳鼻科に行って経緯を説明すると、病名を告げられ、症状が出たときに飲むめまい止めの薬と吐き気止めを処方してもらいました。2~3日服用したあとは、お守りのようにして今も毎日持ち歩いています。

 この病気は、平衡感覚をつかさどる三半規管の中に剥がれ落ちた耳石が入り込んで、それがリンパ液の中で浮遊することでめまいを引き起こす病気で、中高年の女性が多いそうです。思えば、子供を4人育てていて、年齢も40歳間近。ホルモンバランスも乱れてくる年頃です。疲れが取れにくくなってきたことは実感していました。ただ、多少自分がしんどくても頑張ればできちゃうし、やってしまうんですよね。スポーツをやってきて体力がありますし、忍耐力や根性も普通の人より鍛えてきたという自負があって強がってきました。けれど、体は正直でした。

 今回、「良性発作性頭位めまい症」と診断を受けて、今まで通りのやり方ではダメなんだなと思いました。やはり人生の節目にきて「もうちょっと自分のことを大事にしなきゃいけないよ」と言われたような気がします。

 私自身、この病気を知らなかったので、こういう病気があることをいろんな人に知ってもらって、治療を受けたり、めまいで苦しむ人への周囲の理解につながってくれたらいいなと思っています。耳鼻科医からは、経過を冷静に伝えられる状態まで症状が落ち着いてから受診することを勧められました。無理をして歩いて、転倒や事故になったら大変だからです。

 今は子供が学校に行っている間はリラックスできる時間をつくるよう心がけて、予定も詰め込まないようにしています。完治はしないようなので、またあの症状が起こらないとも限りませんが、今はとても元気です。

(聞き手=松永詠美子)

▽大友愛(おおとも・あい) 1982年、宮城県生まれ。2000年にNECレッドロケッツに入団してレギュラーとして活躍し、翌年には女子日本代表に初選出される。いったん代表を離脱するも、04年に復帰し、アテネ五輪に出場。12年にはロンドン五輪代表メンバーになり、28年ぶりのメダル獲得に貢献した。13年に現役を引退し、現在は4児の母として子育てしながらタレント業もこなしている。

◆本コラム待望の書籍化!「愉快な病人たち」(講談社 税込み1540円)11月30日発売。

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