進化する糖尿病治療法

アルコールのカロリーは糖質より「度数」の方が糖尿病には影響が大きい

写真はイメージ
写真はイメージ(C)PIXTA

 年末年始は、飲酒量が増える季節です。コロナの影響で忘年会や新年会が例年より減ったとはいえ、飲む機会は平時よりはあるのではないでしょうか? 糖尿病の人がアルコールを飲む時の注意点や心掛けについて、今回は取り上げたいと思います。

【低血糖に気を付ける】

 アルコールで低血糖を引き起こすことがあります。空腹時にお酒を飲むと、低血糖になりやすい。特に、インスリン注射をしている人や、経口血糖降下剤を服用している人は、低血糖が起こる危険が高まります。

「忘年会や新年会でごちそうを食べるから」と空腹で臨むのはNG。空腹であれば何かをお腹に入れてから。会の最中も、適度に食べ、適度に飲むようにしてください。またアルコール後に低血糖傾向になり、ラーメンなどの炭水化物が食べたくなることもあるので要注意です。

【メトホルミンを服用の人は乳酸アシドーシスに注意】

 2型糖尿病の治療でよく使われる薬がメトホルミンです。ビグアナイド薬という種類に含まれ、インスリンの効果を良くして、血糖値を下げる効果があります。がんの発症リスクを低減したり、インスリン分泌を刺激する消化管ホルモンGLP-1の分泌を促進し体重減少に役立つ機序の可能性も報告されており、重宝されています。

 ただ、飲酒で重篤な乳酸アシドーシスが発現した事例が報告されています。

 乳酸アシドーシスは、血中の乳酸の値が上昇し、非ケトン性アシドーシスという状態になり、意識障害から昏睡などに至る疾患。過度の飲酒で肝臓の乳酸の代謝が低下し、乳酸が蓄積しやすくなり、加えて飲酒によって脱水状態となるため、乳酸アシドーシスのリスクが高くなるのです。

 そのため、メトホルミンを服用している人はお酒を飲み過ぎないこと。事前に主治医に相談し、どれくらいの量に抑えるべきか確認することもお勧めします。場合によっては、大量にお酒を飲んだ時はメトホルミンの服用を一時的にやめたほうがいいかもしれません。それに関しては、自己判断は厳禁。主治医の判断が必要ですので、「お酒が好きなんですが、飲み方はどうすれば……」と正直に事情を話して、判断を仰いでください。

【カロリーの過剰摂取を避ける】

 低血糖対策の点から、アルコールを飲むときは食事もきちんとして欲しいのですが、一方で、アルコールによるカロリーの過剰摂取も心配です。

 アルコールに含まれるカロリーそのものが高い上に、飲み始めは「少しだけ」と思っていても、酔いが進むと次第に理性をつかさどる大脳皮質の活動が低下していくため、アルコールを飲み過ぎ、さらには普段は控えている高カロリーな揚げ物や炭水化物などを食べ過ぎてしまう危険性があります。前述しましたが、締めにラーメンは、血糖コントロールに影響を与えてしまいます。

 たまの宴会くらい、好きに飲み食いしたいところですが、糖尿病であることを自覚し、抑え気味に。1杯アルコールを飲んだら1杯水を飲むなどして、できる限り理性を保ちましょう。それでも食べて飲んでしまったら、帰り際に少し歩いたり、翌日からしばらくは粗食に。忘年会や新年会のような「飲み」を伴う予定は、1週間に1回にするなど、詰め込み過ぎないのも手です。

【「糖質ゼロ」であっても飲み過ぎない】

 糖質ゼロやカロリーオフと表示された酒類があります。一見、体への負担が少なそうな気がしますが、糖質ゼロは「カロリーゼロ」ではありません。

 また、たとえ糖質やカロリーが少なかったとしても、アルコールのカロリーは糖質よりアルコール度数の方が影響が大きい。「糖質ゼロやカロリーオフのお酒なら、気にせず飲める」と考えるのは大間違い。飲み過ぎ防止に努めなければならないのは変わりません。少々厳しいことばかりお話ししましたが、ぜひ頑張って下さい。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事