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子宮頸がんワクチン接種の「積極的勧奨」再開で考えたこと

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 子宮頚がんは子宮の入り口にできるがんです。90%以上がヒトパピローマウイルス(HPV)によるとされ、性交で感染することが分かっています。HPVに感染してからがんになるまでは数年から数十年と考えられ、またHPV感染は男性でも尖圭コンジローマや陰茎がんなどを起こします。日本では、子宮頚がんは年間約1万人が罹患し、約3000人が亡くなっています。

 HPVの感染を防ぐワクチン接種はすでに100カ国以上で行われ、日本では2013年4月に12~16歳(小学6年~高校1年に相当)の女性に対し、無料の定期接種として「積極的勧奨」とされていました。

 ところが、接種後に体の痛みなどさまざまな症状を訴える報告があり、厚労省は同年6月に定期接種を維持しながら、積極的勧奨を中止しました。ただ、接種後に起こるすべての症状(有害事象)の中で、本当にワクチンの副反応によるものかの判断が難しい例もあるようです。現在でも希望すれば無料で接種できますが、ほとんど接種されていません。厚労省は21年11月の検討部会で、「海外の大規模試験から子宮頚がんの予防効果が示されている」として、子宮頚がんワクチン接種の積極的勧奨を22年4月から再開することを決めました。

 積極的勧奨とは、厚労省のホームページによると「市町村が対象者やその保護者に対して、標準的な接種期間の前に、接種を促すハガキ等を各家庭に送ること等により積極的に接種をお勧めする取り組み」としています。

■計5時間の講演会を視聴

 10月23日と11月6日、この子宮頚がんワクチンについてのWEB講演会が行われました(https://hananotani.jp/wp3/?p=690)(https://hananotani.jp/wp3/?p=821)。花の谷クリニック(千葉県南房総市千倉町白子)の伊藤真美院長が主催したもので、2人の講師により討論を含めて合計約5時間の講演でした。印象に残ったところを私なりに解釈し、要約してみます。

 講師の神経内科医師は、「ワクチンが有効であるとした比較試験の結果をそのまま受け取っていいのか」という疑問について、安全性の検証では、試験の対照群にアジュバント(アルミニウム)が使われていることなどの問題点を指摘。多人数による統計をエビデンス(科学的根拠)とすると、少数の副反応が隠れてしまうので、むしろどのような人が副反応を起こしやすいかを明らかにすべきとしています。

 失神発作、頭痛、歩行異常などの症状を繰り返した患者の経過をきちんと示し、これをワクチンの副反応と考えたうえで、これら一人一人の経過を見ることがとても大切で、簡単に心因性によるものと片づけるべきではないと話されていました。

 また、ワクチン被害者の組織による国際シンポジウムで、HPVワクチン関連神経免疫症候群(HANS)の議論が行われたことも報告されました。

 講師のもうひとりは子宮頚がんの診療を行っている婦人科医師で、「ワクチン接種は感染を減らし、88%ほどがんの発症を減らせる」とお話しされました。

 がんの予防効果は10年以上経過しないと分からない。しかし、前がん状態のほとんどがHPVによるものであることが分かっており、ワクチン接種で感染を防げるのであれば、それに越したことはないとの意見です。

 また、前がん状態あるいはがん初期で見つかれば、子宮頚部の円錐手術で済む。流産や不妊の原因になる可能性はあるものの、命に関わることはないとのことでした。加えて、HPVに感染したかどうか自分自身で検査可能なHPVのDNAを調べるキットはあるが、使用時に痛みがあるため正確に使うのが難しく、改良が必要だと指摘されています。

 講演後の討論では、某国ではワクチンを買うお金がなく、接種できない代わりに検診がしっかり行われている。すでに男性も接種している国があるといった現状も取り上げられました。

 講演会を拝見して、対象となる女性は積極的推奨が再開となった理由を含めて詳細な説明を受け、接種するか、しないかを親と一緒に判断していただくしかないと思いました。また、万が一、HANSなどの副反応が起こった場合のしっかりした対応を確立することが大切であると考えました。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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