新型コロナの治療に「抗生剤」をもっと活用してはどうか

イスラエルでは4回目のワクチン接種がスタートしているが…
イスラエルでは4回目のワクチン接種がスタートしているが…(C)ロイター

 オミクロン株による新型コロナウイルスの感染者が急増する中、政府の感染症対策分科会の専門家は3回目のワクチン接種や経口治療薬の供給を加速させる方針を推し進めようとしている。しかし、とても間に合いそうにないうえ、本当に適切な対策なのかどうか疑問の声も上がっている。そんな中、古くから使われている「抗生剤」が注目されているという。

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「クラリスロマイシン」というマクロライド系抗生剤がある。細菌のタンパク質合成を阻害して細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を示す薬で、皮膚感染症、呼吸器感染症、耳鼻科感染症といった感染症に対して幅広く使われていて、ピロリ菌の除菌にも用いられている。

 抗生剤は細菌を退治したり増殖を抑える薬で、一般にウイルスに対しては効果がないとされている。しかし、マクロライド系抗生剤には、かねて新型コロナに対して有効な作用があると指摘されている。「今井病院」の血液内科部長で血液内科専門医の竹森信男氏は、以前からクラリスロマイシンの多様な効果について研究を重ねてきた。昨年8月には、マレーシアの熱帯生物医学の学会誌「Tropical Biomedicine」に、クラリスロマイシンを新型コロナウイルス感染症に対して臨床応用する提案についての論文を投稿し掲載されている。

「共著者であるウィ教授は寄生虫病学分野で著名な研究者です。新型コロナの治療とクラリスロマイシンに関する論文を依頼され、共著として発表しました。クラリスロマイシンには、抗菌作用だけでなく、ほかにも多岐にわたる免疫調節や抑制作用があります。一昨年も、クラリスロマイシンが新型コロナに対しても有効である可能性について追加記載した論文を英国の専門誌に投稿したのですが、今回はさらに理論的な説明を加えたものになります」

 竹森氏によれば、クラリスロマイシンをはじめとするマクロライド系抗生剤には、新型コロナウイルスに対しても以下のような作用が期待できるという。

①新型コロナウイルスが増殖するためには、感染した細胞の中で、自身の遺伝情報を持つタンパク質を合成する必要がある。遺伝情報の読み取りは細胞内にある“翻訳装置”のリボソームによって行われるが、クラリスロマイシンはそのリボソームに作用して、ウイルスの増殖を阻害する。

②新型コロナ肺炎の重症化を促進させるIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの放出を抑制し、過剰な免疫反応で生じるサイトカインストームを防ぐ。

③免疫反応などの生体防御機構において重要な役割を持つ肥満細胞は、体内に侵入した抗原に応答して脱顆粒を起こし、サイトカインやプロテアーゼといった炎症に関与する生理活性物質を放出する。新型コロナウイルス感染症で生じる肺の線維化はそれらの結果により起こるが、クラリスロマイシンは肥満細胞の脱顆粒を抑制する作用があるため、肺の線維化を抑制する。

④ウイルス感染を防御する抗体の機能を持つ免疫グロブリンのひとつIgAの産生を促し、ウイルスを無力化して感染を防ぐ。

⑤クラリスロマイシンは弱アルカリ性で、ウイルスに感染した細胞の中にあるトランスゴルジ網(タンパク質を加工して細胞外に排出する役割を持つ)内のpHを弱アルカリ性に変化させ、ウイルスの成熟を抑制する。

⑥ウイルスがヒトの細胞で複製される際、ウイルス側のプロテアーゼというタンパク分解酵素を利用している。クラリスロマイシンはウイルスのプロテアーゼの活性部位に結合し、プロテアーゼの活性を阻害してウイルスの増殖を防ぐ。

「ギリシャ、エジプト、ブラジルなどでは、新型コロナに対してクラリスロマイシンを使った治療の臨床試験が行われ、有効性が報告されています。日本でも長崎大学が中心となってランダム化比較試験を実施中です。また、吸入ステロイド薬のシクレソニドとの併用で大きな治療効果があったという国内外での症例報告もあります」

■安価で入手しやすい

 昨年12月に日本で特例承認された新型コロナの新しい経口治療薬「モルヌピラビル」は、1コース(5日間)530~700ドル(約6万~8万円)と高額で、途上国などが必要量を確保するのも難しい。

「一方、クラリスロマイシンをはじめとしたマクロライド系抗生剤は200ミリグラムで60円程度と安価なうえ、古くから世界中で使われているので入手しやすく、副作用が少ないこともわかっています。海外の治験を参考にすると、日本では200ミリグラムの錠剤を1回2錠、1日2回、7日間の服用で効果があると思われるので、使いすぎによる耐性菌の問題もそれほど過敏にならなくていいと考えます。まずは専門の医師がクラリスロマイシンによる治療を展開し、一般の医師も臨床で使用できるようになることを期待しています」

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