進化する糖尿病治療法

薬を早い段階で飲み始めるか、食事と運動でギリギリまで頑張るか…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病専門医は患者さんを診察していく中で、今の状態だと血糖コントロールは今後どのように変化し、あと何年くらいで合併症が出てくるだろうと予測しながら、治療計画を立てています。

 進行を遅らせ、合併症を発症する時期を最大限に遅らせるには、どういう薬がいいか? 多種多様の糖尿病治療薬が登場していますから、今ある薬の中から患者さんにベストと思われるものを選んで提案するわけです。

 世界中で行われている新薬の研究の情報も常にチェックしています。新型コロナウイルスの治療薬のように薬が超短期間で承認されるのは例外中の例外で、薬は開発、承認までに何年もかかります。

「◎年先には▲▲▲の新薬が出る可能性がある」という情報があれば、そのタイミングで薬を切り替えられるように、患者さんの血糖コントロールをいい状態で保てる治療法を考えます。

 ただ、せっかく効き目の高い薬、使い勝手のいい薬が登場しても、糖尿病が進行し、合併症をすでに発症してしまっていたら、「残念ながら、新薬の良さを生かせる段階を過ぎてしまっていた」となりかねません。

 今後、1週間に1回でOKのインスリンや、1週間に1回でOKの血糖降下剤の合剤(メカニズムの違う薬が1つになった薬)が登場するとみられています。薬の選択肢が増えれば、血糖コントロールが楽になります。そしてそれは、遠い未来ではないのです。なんとかして合併症に至らないように、薬を上手に活用して欲しいと思います。

 読者の中には「結局は薬ありきの治療ではないか……」と思われる方もいるかもしれません。糖尿病(2型糖尿病)は生活習慣病なのだから、食生活を改善し、運動を取り入れることで、薬を飲まずとも血糖コントロールを改善できるのではないか。薬を検討するのは、もうちょっと時間をかけて生活習慣を改善し、それではどうしようもないと分かってからでいいのではないか……と。

 確かにそうですが、現実には生活習慣病改善による数値低下は年齢による各臓器の機能低下並びに筋力低下などから年々難しいものとなります。

 また厳しい言い方かもしれませんが、そもそも、食事や運動に気を配れる気質なら、糖尿病にならなかったかもしれませんし(体質的に糖尿病になりやすい方もいますが)、たとえ糖尿病になっても、医師や栄養士の介入がほとんどないうちから血糖コントロールを良好に保てるようになっているはずです。

 また、もうひとつ言えるのは、40~50代は仕事やプライベートが忙しく、本人がそうしたくなくても食事時間や内容が不規則になったり、運動する時間を確保しづらかったりする、ということ。

 今は生活のためにむちゃせざるを得ないようなら、定年退職後、時間に余裕ができて健康に気を使えるようになってから運動などをすればいいのであって、その時が来るまでは、自分に合った薬を使っていけばいいと思うのです。

■私だったら「早め」を選ぶ

 もし私が血糖値が高く糖尿病という診断が下りたら……。医者の仕事をこなしながら、毎日1日3回決まった時間に栄養バランスの取れた食事をし、適度な運動を取り入れることは極めて難しい時もあるかと思います。減塩や糖質の取り過ぎ回避には可能な範囲で取り組み、2~3カ月様子を見てHbA1cが下がらなければ、すぐに薬物治療に入るでしょう。何よりも、早い段階での合併症の進行を食い止めることを目標とします。そして、今とは違う生活スタイルになったら、食事や運動に気をつけ、薬を減らしていくことを次の目標にするでしょう。

 糖尿病の薬は一度飲み始めるとやめられない?必ずしもそうではないです。血糖コントロールが良い状態を長期間保てていれば、薬を減らせます。前述の通り、今後は合剤もどんどん登場していきますし、飲む頻度が少なく済む薬も登場していきます。結果、薬の効果は今まで以上に、でも毎日は飲まなくていいようになるのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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