早期乳がんに画期的な新薬が登場 再発リスクを有意に下げる

乳がんは5年以降も再発リスクが(写真はイメージ)
乳がんは5年以降も再発リスクが(写真はイメージ)

 がんは一般的に手術で切除でき、それ以降、5年間で再発が見られなければ「完治(治った)」となる。しかし、そうはいかないのが乳がんだ。タイプによっては5年以上経っても再発の不安から逃れられない。しかし、その状況を変える治療薬が昨年末、承認された。

「再発率が高い乳がん患者さんをなんとか救えないか、という思いがあった。その解決の道筋ができた」と話すのは、がん研有明病院乳腺センター長の大野真司医師。同センター乳腺内科副部長の原文堅医師も「完治が期待できる人が増える」と続ける。

 女性を襲う最多のがんで、9人に1人が罹患するといわれる乳がんは、早期の場合、術後、再発抑制のために「サブタイプ」に応じた治療が行われる。

 サブタイプとは、乳がんの細胞が持つ遺伝子の特徴によって分類したもの。

 ホルモン受容体、HER2(ハーツー)、がん細胞の増殖スピードを示すKi67値で分類される。

 最も多いのがホルモン受容体陽性の乳がん。女性ホルモンに反応して増殖する乳がんで、全体の約70%を占める。このサブタイプには術後、ホルモン療法が行われる。

「しかし、ほかのがんと違って、ホルモン受容体陽性の乳がんは5年を過ぎても、10年、15年と過ぎても再発のリスクがあり、直線的にリスクが高くなっていきます。一方、ホルモン受容体陰性では術後2年までがピークで、それ以降は徐々に減り、5年を過ぎると再発リスクは、ほぼありません」(原文堅医師=以下同)

 ホルモン受容体陽性の中でも特に、リンパ節転移が多い(4個以上)、リンパ節転移が1~3個の場合はKi67(がん細胞の増殖スピード)の数値が高い、がんが大きい、がんの“顔つき”が悪い(病理学的悪性度が高い)などに該当すると、再発リスクがより高くなる。

「こういう患者さんにはホルモン療法だけでは不十分。再発リスクに応じて抗がん剤や放射線を組み合わせますが、それでも再発する人がいます。中でもリンパ節転移が多い患者さんは再発リスクをなかなか下げられなかった。しかし今回承認された『ベージニオ』(一般名アベマシクリブ)で、有意差を持って再発リスクを下げられることが臨床試験で証明されました」

 ベージニオは、がん細胞の中にある増殖を制御するタンパク質を標的にして、がんを攻撃する分子標的薬の一種。CDK4、CDK6という2つの酵素の働きを阻害する。CDK4は乳がんの増殖の維持に欠かせず、CDK6は骨髄での造血幹細胞の成熟に特に関連する。

 同様の薬はほかにもあるが、ベージニオの場合、CDK4は強力に、CDK6はほどほどに阻害するので、骨髄抑制がほかの薬に比べると弱い。つまり、白血球の減少が著明でない。よって、連日投与が可能だ。

■進行・再発の薬が適応拡大

 ベージニオは、もともと転移・再発乳がん(進行乳がん)に対し、ホルモン療法と併用して使われていた。今回、早期乳がんにも適応拡大された形だ。対象は前述の通り、ホルモン受容体陽性で、かつHER2陰性(HER2陽性より再発リスクが高い) の早期乳がん。さらに「腋窩リンパ節転移4個以上」「腋窩リンパ節転移1~3個+腫瘍サイズ5センチ以上または腫瘍グレード3」のいずれかを満たす患者に、術後、ホルモン療法と併用して2年間、内服投与される(日本の場合。米国とは異なる)。抗がん剤、放射線の治療が行われる場合は、その後になる。

「ホルモン療法単剤よりも副作用はあります。重めの副作用は少ないのですが、進行がんとは違い、早期がんの治療で完治が目的なので、重篤な副作用はできるだけゼロにしたい。そのために慎重なフォローアップと適切な副作用対応が必須です」

 重篤な副作用として報告されているのは、間質性肺炎、肝機能障害、骨髄抑制、重度の下痢、静脈血栓塞栓症。軽度のものも含めると、下痢は9割近くの人に見られる。

 なお、術後にベージニオを使用し、それでも再発した時の最適な治療については臨床試験では検討されておらず、今後の課題となる。

関連記事