原発不明がんの治療薬が世界初の承認 治療はどう変わるのか

原発巣が不明の場合、治療が立てにくかったが…
原発巣が不明の場合、治療が立てにくかったが…(C)日刊ゲンダイ

 画期的な抗がん剤として注目を集める免疫チェックポイント阻害剤。そのひとつ、「ニボルマブ(製品名オプジーボ)」が昨年末、原発不明がんの薬として承認された。これまで原発不明がんには承認された薬がなく、世界初だ。しかし、原発不明がんとは、そもそもどういう病気? 近大医学部腫瘍内科の中川和彦教授に聞いた。

 がんは、肺がんなら肺、胃がんなら胃と、ある部位に最初に発生し、やがてがん細胞が血液やリンパの流れに乗って、別の部位に転移する。

 最初にがんができたところが「原発巣」で、転移したところが「転移巣」。

 治療は、原発巣が何かをもとに行われる。たとえば肺にがんが見つかっても、検査で胃からの転移と判明すれば、胃がんの治療が行われる。

 一方、原発不明がんとは、十分な検索にもかかわらず原発巣が不明なもの。原発巣が不明ということは治療が立てづらいということになる。

「血液検査や尿検査、画像検査などで生検可能な部位を見極め、組織学的診断を並行して原発巣を推定します。特殊な免疫組織化学、遺伝子・染色体検査、遺伝子プロファイル検査を行うこともあります。しかし、それでも原発巣が不明なことが多い」

 原発巣が推定されれば、その推定原発巣に準じて治療を行う。原発不明がんの15~20%を占め、比較的予後がいい。

 しかし残りの80~85%は原発巣が推定できない。こういった患者の標準治療は確立されておらず、抗がん剤治療の一種であるプラチナ併用化学療法か、臨床試験への参加か、症状緩和のみを行うベストサポーティブケア(BSC)か、のいずれかが行われる。

「原発不明がんの予後はばらつきがありますが、予後不良群では6~9カ月と報告されています。しかし今回ニボルマブについて、原発不明がんの適応拡大が承認された。これは非常に意義があることです」

■「生存期間6~9カ月」が延びる可能性

 臨床試験では、腫瘍が30%以上に縮小することを治療の有効性を示す主要評価項目とした。予後不良の原発不明がん(抗がん剤既治療例45例、未治療例11例)のうち、既治療例の奏効率は22.2%、治療歴を問わない全体では21.4%と、ニボルマブの抗腫瘍効果が示された。

 また、既治療例の病勢制御率(完全奏効・部分奏効・腫瘍の大きさが変化しない安定の合計)は53.3%、無増悪生存期間の中央値は4カ月、全生存期間の中央値は15.9カ月。前述の通り、原発不明がんは一般的に予後不良であり、生存期間の中央値は6~9カ月と報告されているので、かなり延びている。  

 今後、原発不明がんの治療で一層重要となってくるのは、予後良好群か予後不良群かを速やかに判断し、治療を開始すること。原発巣の見極めに要する期間をガイドラインでは1カ月程度をめどとすべきとしている。

 こんな不幸なケースがある。70歳男性で食欲不振、疲労感、体重の著しい減少からクリニックを受診。胸部レントゲンで肺に多発腫瘤影が見られ、呼吸器内科を紹介された。

 呼吸器内科医は転移性の肺腫瘍と診断。しかし検索しても原発巣が見つからなかった。PET-CTで膵臓に異常集積があり、男性は紹介された消化器内科へ。

 消化器内科医は検索をしたものの膵臓に原発巣を確認できず、この時点で2カ月が経過。患者は体力低下で治療意欲も低下。これ以上の検査はされたくないと中川医師の腫瘍内科を受診。原発不明がんと診断されたが、治療開始に適したタイミングは過ぎていた。

「予後良好な原発不明がんであっても、またはニボルマブを使っても、がんの治療は体力が落ちてからでは治療成績が悪い。原発不明がんでは、過剰な検査は避けなければなりません」

 原発巣がなかなか見つからないようなら……。患者側としては、がんに特化し臓器を横断的に診る腫瘍内科を擁する医療機関を受診することを覚えておきたい。

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