独白 愉快な“病人”たち

大腿骨頭壊死症で引退…元オリックス西浦颯大さんが苦闘を語る

西浦颯大さん
西浦颯大さん(提供写真)
西浦颯大さん(元プロ野球選手/22歳)=両側特発性大腿骨頭壊死症

 異変は2020年のシーズン終盤、左のお尻まわりに筋肉痛のような痛みを感じたことでした。歩けないほどの痛みではなかったので様子を見ていたところ、数日後、一軍に呼ばれて試合に出ると左股関節の骨に痛みを感じました。その日は乗り越えたものの、2試合目に出場した後には痛くて歩けない状態になりました。

「もう無理だ」となってトレーナーさんに相談して病院に行き、その時の診断は「疲労骨折」でした。でも、ひどい痛みが続いたのでセカンドオピニオンでいろいろ調べてもらったら「両側特発性大腿骨頭壊死症」とわかったのです。

 痛かったのは左股関節だけでしたけれど、検査をすると右股関節にも壊死がありました。その段階で医師から「復帰は諦めたほうがいい」と告げられ、「そんなにひどいんだ」と思いました。それまでなんでもなかったので、意外というかなんというか……。

 大腿骨頭壊死症は股関節の病気のひとつで、大腿骨頭の血流が悪くなって骨の組織が壊死してしまう国指定の難病です。ただ、壊死しただけでは痛みはなく、関節が変形して破壊されることで痛みが出るようです。原因は不明です。

 復帰は難しいと言われたものの、なぜか全然へこんではいませんでした。それどころか「ここから復活したらカッコよくない?」と思って、逆に頑張ろうかなと思えたのです。

 受けた治療は「大腿骨頭掻爬骨移植術」でした。骨盤から骨を取って、大腿骨頭へ移植するという手術です。2020年11月に左股関節、翌年2月に右股関節を手術しました。骨頭にドリルで穴をあける手術なので、術後はジンジン、ズキズキという痛みがずっと続きました。でも、痛みより寝返りできないことのほうがきつかったですね。10日間ずっと上を向いて寝ていたんです。

 やっと自分で寝返りができるようになったのは1カ月後ぐらい。できない間は看護師さんが2人がかりで寝返りさせてくれるんですけど、忙しくて大変そうだし、ときどき来てくれても「大丈夫です」と言って断っていました。自分、タフなんで(笑い)。

 立ち上がれたのは術後1カ月半後ぐらいだったと思います。人の手を借りて平行棒につかまって歩くリハビリを始めました。あまり何も考えていなかったですね。とにかく先生の指導に従って、自分のやれることをやっていました。つらかったことを挙げるとすると、おいしいごはんが食べられなかったことぐらい(笑い)。

 両足で約半年間の入院生活でした。おかげさまで右足は壊死範囲が小さかったので完全に治りまして、この先も大丈夫と言われています。ただ、左足の骨頭は壊死の範囲がこの病気では一番ひどいレベルまで広がっていたので、走れるまでには回復しませんでした。8月には打撃練習などをやってみて復帰を目指したのですが、やはり無理でした。

■可能性があるなら挑戦する価値はある

 今も左股関節は歩くと結構な痛みがあります。日によっては寝ていてもジンジンします。日常生活ではイスに座るときのような屈伸の動作に痛みがあって、不便を感じています。でも、痛み止めの薬は飲んでいません。なぜなら自分はタフなんで(笑い)。

 長距離を歩くときは杖を使っていますが、短い距離なら杖なしで大丈夫。医師から重い物を持つこととジャンプはしないように言われていて、あとはビタミンDの薬を飲んでいます。

 ただ、このまま放置していても治ることはないので、いつかは人工股関節に換える手術をすると思います。人工股関節には耐用年数があるので、この先、何度も手術をしないで済むように今の状態をなるべく長く維持することが理想です。だから、オジさんになるまでこれで頑張るつもり。

 病気をして改めて思ったのは、何に対しても可能性がちょっとでもあるなら挑戦してみる価値はあるということです。病気に限ったことではないと思いますが、自分のことで言えば「復帰を諦めたほうがいい」と言われても、諦めずに復帰を目指して挑戦したことは本当によかったと考えています。結果、復帰はできなかったけれど、挑戦したことでたくさんの方に応援をしてもらえました。もし何もせずにやめていたら、こんなに快く引退を受け入れてもらえなかったと思います。

 開設したばかりのユーチューブチャンネルでも、いろんなことに挑戦して、挑戦する自分の姿を通して大腿骨頭壊死症という病気について多くの人に知ってもらったり、同じ病気の人たちに勇気を与えられたらいいなと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽西浦颯大(にしうら・はやと) 1999年、熊本県生まれ。小学3年から野球を始め、中学3年の時にU15野球ワールドカップ日本代表に選出。明徳義塾高校に進み甲子園に通算4回出場した。2017年のドラフトでオリックス・バファローズから6位指名を受けて入団。18年に一軍登録されプロ初出場を果たした。21年9月に現役引退。今年、ユーチューブチャンネルを開設し次の道を歩き出した(https://www.youtube.com/watch?v=AHm7jkJngx0)。

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