60歳からの健康術

自由診療歯科医が教える歯のケア(7)かかりつけ歯科医師の選び方は?

写真はイメージ
写真はイメージ

 口の中のトラブルが目立って表れるのはサラリーマンが定年を迎える60歳以降。そこで良いかかりつけ歯科医師を見つけられるか否かは、残りの人生の大きな差になる──。こう言うのは自由診療歯科医で「八重洲歯科クリニック」の木村陽介院長だ。どういうことなのか。話を聞いた。

「虫歯や歯周病が中高年で増えてくる一因は唾液の量や質が変化するからです。その結果、口腔内が真菌や細菌が繁殖しやすい環境に変わってしまうのです」

 ただでさえ中高年は歯茎が痩せてエナメル質より軟らかい象牙質の歯根部が露出する。そのうえ、粘膜保護や抗菌作用のある唾液の量や質が変われば、虫歯や歯周病が増えるのは当然だ。

 実際、厚労省の「平成28年歯科疾患実態調査」を見ると、歯を失う人の割合が50代を境に急速に増えることを示している。両側2本の歯を支柱にして、欠損した歯の代わりにクラウン(人工歯冠)をかぶせるブリッジ処置をした人の割合は60~64歳で13.9%に跳ね上がっている。

「50~60歳で唾液量が減ることは多くの調査・研究が明らかにしています。たとえば、31~80歳の住民250人を10歳刻みで5群に分けて10分間、安静時総唾液分泌量を測定した秋田県の研究では、男性は51歳以降、女性は61歳以降に唾液量が減少すると報告しています」

 注意したいのはこの研究での対象者は唾液の分泌量に影響のある薬を飲んでいないことだ。

「精度の高い研究のために除外していますが、実際には高血圧や糖尿病の薬を飲んでいる中高年はたくさんいます。これらの薬は唾液分泌量を抑える傾向があります。この研究ではそれが反映されていません。日頃からそういう薬を飲んでいる人は、かなり厳しく口腔ケアに注意する必要があります」

 もちろん加齢により唾液の質も変わる。

「唾液はサラサラ、ネバネバ、両方が混ざったものの3種類があります。安静時の唾液は耳下腺からはサラサラ、顎下腺からは混ざったもの、舌下腺ではネバネバが分泌されます。一方、食べて咀嚼したり食品の匂いを嗅いだりして刺激を受けると、耳下腺からの分泌が多くなります。ところが、年を取ると耳下腺からの分泌が減ります。その結果、唾液分泌量の減少と相まって口の中がネバネバしてくるのです」

 だからこそ、60歳以降は唾液についてや口腔内の幅広い知識、最新情報を持った腕の良いかかりつけ歯科医師が必要なのだと木村院長は言う。

「家が近いから、ネットでなんとなく印象が良かったから、というだけで選ぶのはよくありません。虫歯や歯周病の予防・治療に詳しくて、いずれ誰もがお世話になる入れ歯やインプラントを作れるだけの経験と知識のある、かかりつけ歯科医師を探すことが大切です」

関連記事