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外科手術が必要になる「出っ歯」の状態と治療法は?

歯科医の菊池香織氏
歯科医の菊池香織氏(提供写真)

「出っ歯」とは、前歯が前に出ている状態で、歯科では「上顎前突」と呼んでいます。上顎前突には「歯性」と「骨格性」の2種類があります。「歯性」は歯が生えた位置や生えてきた角度など単純に歯の問題なので、マウスピースなどの通常の歯列矯正のみで対応できます。

 一方、「骨格性」は上顎の骨が大きかったり、または下顎の骨が小さすぎて後ろに引っ込んでいたり、上顎と下顎の骨がゆがんでいたり上顎と下顎の骨の位置関係がずれているために、骨ごと前歯上顎が前方に出ている、もしくは下顎が引っ込み過ぎているために上顎が出ているように見える状態です。

 外科手術が必要になるのは骨格性の場合で、歯の移動だけでは改善できない場合は顎変形症という病名が付き、たとえば顔が変形する顎変形症を起こしているケースなどでは矯正治療と外科処置の両方が必要です。

 また、上顎と下顎がずれて、歯並びに影響し、噛み合わせが悪い不正咬合がある場合も、歯列矯正では治療が難しく、根本的に顎の外科処置が必要になります。

「出っ歯」の手術を受ける場合、術前矯正と呼ばれる矯正治療から外科手術、術後矯正へと進む場合と、術前矯正なしで外科手術、矯正と進むパターンがあり、全てを大学病院などの大きな病院で行うか、または矯正治療は矯正歯科、外科手術は形成外科などの開業医でそれぞれを行うことも可能です。まずは歯科医院で外科手術前の歯並びの調整を行います。その後、大学病院などの口腔外科で手術を実施し、術後矯正は歯科医院で行います。

 骨格性上顎前突の手術には、主に「上顎前歯部歯槽骨切り術」があります。基本的に前歯は上下各8本ずつありますが、ここでは上の前小臼歯を左右2本抜いて、前歯の6本を骨ごと切り離し、抜歯をして出来た隙間を利用して後方に引っ込めます。ただし、上顎の手術なので、しばらくは口を動かしにくく、術後は骨を固定するために口を動かすことができないため、食事や会話に不便を強いられるケースがあります。

 また下顎全体が後退しているために出っ歯に見える方もいます。この場合、「下顎枝矢状分割術」によって、下顎全体を前方に移動させます。左右のエラから頬の内側の歯茎を切開して、エラ部分の左右の骨を分割し、噛み合わせを考慮したバランスの良い位置に移動させます。

 下顎枝矢状分割術は上顎や下顎の外科処置は骨を移動させる大掛かりな手術ですから、体への負担は大きいです。手術後、数週間程度は患部に痛みや腫れがあり、マヒなどの症状が出る可能性もあります。

 歯列矯正の治療だけであれば保険は適用されませんが、顎や骨を切るような手術が伴う場合、大学病院や一部の医療機関では、歯列矯正の費用を含めて、入院費用まで保険診療の対象になります。

 保険の負担額が3割で、60万円前後が相場とされています。

 また手術は大学病院などで10日前後の入院と全身麻酔が必要となります。術後の歯列矯正も含めて、完全に治療を終えるのに2~3年はかかると考えておきましょう。

 ただし、手術を伴う場合はリスクもあるので、かかりつけの矯正歯科医に相談し、口腔外科治療方針は慎重に選びたいところです。

▽菊池香織(きくち・かおり) 1999年日本歯科大学卒業後、2000年同大学付属病院矯正歯科勤務。03年同矯正歯科退職後、都内舌側矯正専門クリニック勤務後、05年フリーランスの矯正医として複数のクリニックで診療。06年WSLO世界舌側矯正歯科学会認定医資格取得、15年から東京都港区に麻布十番矯正歯科室を開業。

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