ご存じの方も多いと思いますが、風邪のほとんどはウイルス感染ですから、抗菌薬(抗生物質)は効きません。抗菌薬は細菌感染には効果がありますが、ウイルス感染には一切効果がないため、ほとんどの風邪には必要ない薬なのです。
風邪に抗菌薬を処方しても治癒が早くなることはなく、むしろ成人では抗菌薬による副作用(嘔吐、下痢、皮疹など)が偽薬群(プラセボ群)と比べて2.62倍多く発生するという報告もあります。現場で行われている風邪に対する抗菌薬投与の多くは、細菌性の二次感染予防を目的とするものですが、薬剤耐性菌の出現を助長するのでやはり可能な限り行うべきではないといえます。
日本人消費者のヘルスリテラシー能力は海外と比べて高くないといわれています。たしかに、ヘルスリテラシー能力が高いとされるオランダでは、風邪で受診した患者さんから「抗菌薬は出さないでね、ドクター!」などと言われると聞いたことがあります。そうした結果でしょうか、オランダの薬剤耐性菌の比率は非常に低く、MRSA率(検出された黄色ブドウ球菌のうちどの程度がMRSA=メチシリン耐性黄色ブドウ球菌だったかの割合)は1%以下で、MRSA率が50%以上の日本とは大きな差がついています。
以前、私が学校薬剤師を務めている小学校で保護者にアンケートを行ったことがあるのですが、半数の保護者は「風邪には抗菌薬が必要」と考えていて、「処方を希望する」と回答されていました。このような一般消費者に対するヘルスリテラシー教育も非常に大切ではないかと考えています。
一方で、風邪だと思っていても逆に抗菌薬が必要なケースもあります。たとえば「急性咽頭炎」はA群溶血性レンサ球菌が原因のケースがありますし、「急性気管支炎」ではマイコプラズマやクラミジアが原因になることもあります。
とはいえ、A群溶血性レンサ球菌は迅速抗原検査などで調べることが可能ですから、抗菌薬が必要な場合には患者さんが何も言わなくても、医師が処方するはずです。
くれぐれも診察を受けた時に患者さんから抗菌薬を希望することはやめましょう。必要か否かについては医師の判断に委ねることも非常に大切なことだといえます。
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