冬季オリンピックが20日に終了し、来週3月4日からはパラリンピックが開幕します。手に汗握って応援してしまう、そんな瞬間がしばらくは続くことでしょう。
応援といえば、松岡修造さんの熱いエールが思い起こされますが、実はペンシルベニア大学の研究(2019年)に、「アドバイスを与えたり、励ましたりすることで、アドバイザー本人のやる気や成績が向上する」という興味深い報告があります。「キミならできる!」「あきらめるな! 大丈夫!」といった掛け声には、驚きの効果がある--。
なぜ松岡修造さんが常に向上心の塊なのか、その理由がこの研究からわかるかもしれません。
研究は、約2000人の多様な公立高校の生徒を対象に行いました。
自分より若い生徒、すなわち後輩に対して、8分間の学習場所や学習戦略についてアドバイスを行ったグループと、そうではないグループに分け、さらに前者には後輩へやる気を促進するような手紙を書いてもらいました。
その上で、学期末テストの成果を比較したところ、少しではあるもののアドバイスを送った生徒たちの学力が伸びている傾向が見られたそうです。
人間には、他者から期待されることによって学習や作業などの成果が向上する、「ピグマリオン効果」という心理的行動が備わっています。「自分は期待されているんだ、できる人間なんだ」という思い込みの力が発動し、無意識のうちに頑張れるといわれています。ところが、期待した側も向上するというから不思議ですよね。
研究チームによれば、矛盾する認知を同時に抱えると生じる“認知的不協和”がポイントなのではないかと見解を述べています。
認知的不協和とは、禁煙をしたい自分と実際にできない自分という具合に、人間が矛盾する認知を同時に抱えた時に覚える不快感を表す心理学用語です。
つまり、後輩を励ました手前、自分も結果を出さなければ格好がつかない--。こんな認知的不協和に悩まされ、期待した側もいつもよりも頑張って向上したのではないか、と。
この実験の面白いところは、励ます時に具体的に教える方が、より効果があったという点です。
人に伝えている一方で、実は自分の中で確認も行っていて、自分に言い聞かせている……。そういったアドバイスや励ましを行った先輩に、成績向上が見られたそうです。
たとえば、会社で先輩が部下に、「あきらめるな! 〇〇をすれば大丈夫!」と励ます背景には、自分自身に対して「〇〇が大事」と言い聞かせている側面もあるというわけです。「人の弱点を見つける天才よりも、人を褒める天才がいい」とは松岡修造さんの言葉ですが、真剣に、情熱を持ってアドバイスをする。なぜ松岡さんが人気者なのか納得ですよね。
先の実験では、自信とモチベーションに関しては、アドバイスを受けた側よりも、アドバイスをした側の方が伸びていたほどです。励まし甲斐のある、と言ったら変な言い方かもしれませんが、お互いにアドバイスを送り続けられるような関係をたくさん築けると、人生は豊かになるといえそうです。良い先輩になりたければ良い後輩を育てる。そのためには、人を戒めるより励ますことを意識してみてください。
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