名医が答える病気と体の悩み

自己流で押してはいけない「危ないツボ」はあるのか?

皮膚科医・漢方科医の泉さくら氏
皮膚科医・漢方科医の泉さくら氏(提供写真)

 東洋医学では、ツボ(経穴)を刺激することで体の不調を整えられると考えられています。人体に流れている気血の流れを経絡と呼びますが、ツボとはこの経絡上に点在しています。

 基本的に、施術として自身でツボを押す分には人体に悪影響はありません。ただし、一部に“危ないツボがある”と心配されるのは、空手などの武術で「急所」として押す部分とかぶるツボもあるためで、混同しているからだと思います。もっとも、押し方によって急所もツボとしての不調改善効果があることを知っておきましょう。

 たとえば、「勝掛」と呼ばれる顎にあるツボは武術の急所にもなっています。歯が痛いときに痛みを和らげる効果があるツボです。施術としては、適度な刺激を与えることで、痛みの神経につながる生理機能を抑制させます。しかし、急所を攻撃する目的で強い刺激を与えると神経機能が停止してしまいます。痛みは和らぎますが、体の巡りには悪影響を及ぼすのです。

 勝掛をはじめ、「四神聡」「当陽」「印堂」「太陽」など「奇穴」と呼ばれる特殊なツボが、いわゆる急所となるケースが多く、一般的な経絡上にあるツボとは異なります。経絡上にあるツボは、「十四経」と呼ばれます。循環系を14に分けた経絡の総称です。

 ツボと急所が同じ位置にある場合、前述したように押し方が大事になりますが、東洋医学では刺激の与え方にも法則があります。「アルントシュルツの刺激法則」と呼ばれ、刺激の強度、神経や筋の興奮性についての法則です。4段階あって、①弱い刺激……生命活動を活性化するために体内の組織の働きを目覚めさせる刺激②中程度の刺激……組織の働きを高進させ、気血の促進を起こすための刺激③強度の刺激……生理機能を抑制させるための刺激④最強の刺激……生理機能を停止させる刺激、です。①②がツボ押しと呼ばれるもので、④は急所の刺激と呼ばれるもの。③はどちらにも作用するといわれています。

 ツボを押す時は、圧力を加えずに手のひらや親指で痛みを感じない程度にしましょう。呼吸に合わせて押すと効果的です。不安な方は「漢方科医」のいる病院で聞いてみるのもいいでしょう。

▽泉さくら(いずみ・さくら) 2013年琉球大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院皮膚科入局。帝京大学医学部付属病院、東京大学医学部付属病院勤務などを経て、19年にココメディカルクリニック院長就任。

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