Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がんの最期 自宅で穏やかに迎えるためのプランを考えておきたい

元気なうちに医師に伝えておく
元気なうちに医師に伝えておく

 男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになります。世界有数のがん大国ですから、がんで迎える最期について考えておくことは大切です。その点で、国立がん研究センターの調査を見ると、心もとない現実が浮かび上がります。

 調査は、2017年と18年にがんで亡くなった患者の遺族が対象。19年と20年に郵送でアンケート調査を行い、亡くなる1カ月前からの療養状況などについて調べた結果(遺族調査)です。

 5万4000人余りの回答の中、「患者は痛みが少なく過ごせた」は47.2%で、「からだの苦痛が少なく過ごせた」は41.5%。半数以上が痛みに苦しみながら亡くなるのが現実です。

 がんの痛みに対する処置は、緩和ケアといいます。一般的な鎮痛剤では対応しきれず、モルヒネに代表される医療用麻薬の使用が中心です。その使用量は、米国の14分の1、ドイツの20分の1。遺族調査の結果は、緩和ケアが不十分な現実を反映しています。

 調査の患者像は、死亡時に80歳以上だった割合が5割超。高齢ゆえ介助を必要としたのは約8割、認知症の合併は13%に上ります。がん以外の病気による痛みや認知症の影響もあるでしょうが、それでも緩和ケアが不十分です。

 もう一つ見逃せないのは、「望んだ場所で過ごせた」も47.9%と半数を割ったこと。日本では8割が病院で亡くなる一方、17年度の厚労省の調査では8割が自宅での最期を望んでいます。最期の場所を巡るギャップは17年より少なくなっていますが、まだ大きい。

 これらの点を踏まえると、ある程度、がんが進んだ時点で亡くなるまでの療養プランをイメージしておき、患者側から医療者に提案するべきだと思います。相手は、医師ではなく、看護師でもよいでしょう。

 私は、がん患者、一般市民、がん診療に携わる医師・看護師を対象にアンケートしたことがあります。その結果、「最後まで病気と闘うこと」を望ましいとする割合は、がん患者・一般市民と医療者で食い違いました。闘病を必要とした医療者は2~3割でしたが、がん患者・一般市民は8割でした。

 この点については医療知識も大きく影響するので簡単ではありませんが、それでも末期がんの克服は難しい。それを踏まえると、苦しむことなく穏やかに家族に囲まれて最期を迎えるというライフプランは考えておいていいと思います。

 私なら、医療用麻薬が効かない場合、放射線治療や神経ブロックで痛みを取ることを希望。加えて蘇生措置と過剰な点滴は不要で、最期は自宅で迎えたい。これらを書き留めておき、家族にも伝え、医療者に提示したいと考えています。読者の皆さんは、いかがですか?

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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