引き続き、肺炎球菌やインフルエンザ菌といった一般細菌による肺炎とは別の「非定型肺炎」についてお話しします。今回はそのひとつ「マイコプラズマ肺炎」を取り上げます。
マイコプラズマという微生物に感染して起きる肺炎で、2011年には内親王の愛子さまに続き、当時の天皇陛下(現・明仁上皇陛下)も感染したことで話題になりました。
マイコプラズマ肺炎は3~8年程度の周期で大流行が起きることが世界的に報告されています。その要因はよくわかっていないのですが、例年、秋~早春に多く、初夏にやや増加する年もあります。ただ、16年を最後に大きな流行は見られておらず、やや不気味な感じもします。
好発年齢は6~12歳の小児で、60歳未満の若年者の感染が多いことが知られています。潜伏期間は1~4週間と比較的長く、発熱や全身倦怠感などの症状に加え、喀痰を伴わない乾いた咳を伴う場合が多いとされています。
前回も説明したように非定型肺炎であるマイコプラズマ肺炎にはペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬は無効です。このためマクロライド系抗菌薬を使用することも多いのですが、アジアを中心にマクロライド耐性のマイコプラズマが増加しており、日本においても小児科領域の約80%に及んでいるというデータも出ています。
マクロライド耐性マイコプラズマには、テトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬が有効とされています。しかし子供の場合、テトラサイクリン系抗菌薬は歯牙の着色やエナメル質の形成不全などを起こすことが知られているため、8歳未満では原則として使用できません。また、副作用の危険性などによりニューキノロン系抗菌薬も小児への使用が認められているものは、ほんの一部だけです。
当連載を続ける中で、薬剤耐性菌の問題は本当に深刻な問題だと改めて実感しています。むやみな抗菌薬の使用は厳に慎むべきであり、逆に使用が必要な場合には中途半端に使わずに、十分な量を十分な期間、使用する必要があります。アクセルとブレーキをしっかり踏み分けることが大切なのです。
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