「便秘は命に関わる」が世界の常識 複数の海外研究で証明…15年の追跡調査では20%生存率が低い

写真はイメージ
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 便秘は、加齢とともに性差に関係なく増え、70歳以上では男女比ほぼ1対1。コロナ禍による活動量低下で、便秘が増えたとの指摘もある。日本初の「慢性便秘症診療ガイドライン」の作成に関わった横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授の中島淳医師に話を聞いた。

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「日本では、医師ですら『便秘は死ぬ病気ではない』という認識ですが、世界では『命に関わる』という認識です。それを示す研究発表が複数あるのです」

 そのひとつが、米国で15年間生存状況を追跡調査したもの。便秘なし・ありで区別すると、15年後には便秘ありの方が約20%生存率が低かった。

「一番の問題は、排便時のいきみによる急激な血圧上昇です。高齢者は動脈硬化があるため、いきみ時に血管が十分に伸び縮みせず、血圧が一気に上昇する。収縮期血圧(上の血圧)が280㎜Hgまで上昇したというデータもあります。それによって脳卒中や心筋梗塞といった循環器疾患を起こしやすくなるのです」

 排便回数と心血管疾患、脳卒中の死亡リスクを調べた研究では、どちらの疾患も、排便回数が少ないほど死亡リスクが高かった。

 便秘が慢性腎臓病(CKD)の発症率を上げることも明らかになっている。CKDは心血管疾患・脳卒中のリスク因子であり、腎不全による人工透析にもつながる。

「便秘が改善すると腎機能が良くなるとはいわれていたのですが、虎の門病院の住田圭一医師が約350万人の米国人を対象に行った研究で、世界で初めて便秘とCKDが関連していることを突き止めました」

 その研究では、便秘のあり・なし、重症度によって、CKDの発症率ははっきりと異なった。

「考えられる理由として、便秘で電解質異常が生じ、腎機能が低下。一方、CKDによる血流障害、神経障害で、腸管蠕動運動低下などが起こり便秘に至る。便秘とCKDには相互関係があるとみられています」

 健康寿命を延ばすには、便秘を放置していてはいけないのだ。

散歩やジョギングをし水分をよく取るのが理想(写真はイメージ)
散歩やジョギングをし水分をよく取るのが理想(写真はイメージ)
運動・食事・排便環境の改善が大切

 便秘の治療では「出す」ことをゴールとしがち。しかし「いきんで出す」のでは血圧上昇、ひいては循環器疾患のリスクは下げられない。「出たはいいけど、全部出しきれていない」では、CKDのリスクを下げられない可能性がある。

「重要なのは、『迅速、かつ完全に』。そうでない排便は、何よりすっきり感がない」

 すっきり排便には、よく知られる通り、ちょうどいい軟らかさのバナナ状の便が理想だ。硬い便はいきまないと出ず、バラバラになるので便のかけらが肛門に残る。一方、薬を使って下痢状にして出す便は、迅速には出るが、直腸が収縮すると便の半分は逆流してしまい、一度に全部出しきれない。バナナ状の便を目指すには、まずは運動、食事、排便環境の改善だ。運動では起床後1時間程度の散歩やジョギングをし、水分をよく取るのが理想。食事は米飯を含む和食が望ましい。

「排便環境では、斜め35度の前かがみの姿勢が最も排便しやすい。トイレに座っただけでは直腸がまっすぐにならず、便が出にくいのです。小柄な方では足元に台を置くと効果的です」

 高齢者では大腸運動が低下し、直腸の感覚閾値が低下しているため便意を覚えにくい。また、胆汁酸という成分が便を軟らかくし、便意を覚えやすくする働きをするが、胆汁酸の分泌が便秘の人では少なく、加齢によっても減る。胆汁酸にフォーカスした薬など、今は便秘治療薬がいくつか出ている。

「古くから使われている酸化マグネシウム剤は、高マグネシウム血症を起こすリスクがあり、刺激性下剤は頓服的に使うならいい薬であるものの、常用すると依存性など問題点があります。自己判断で市販薬を使わず、必ず医師に相談してほしい」

 便秘は、大腸がんの自覚症状のひとつでもある。それを見逃さないためにも、便秘に悩んでいるなら一度は便秘治療に力を入れる消化器専門医に相談すべきだ。

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