進化する糖尿病治療法

高血圧の薬 あなたに合ったものが適切に処方されていますか

写真はイメージ
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「高血圧の薬の種類によっては糖尿病のリスクを上げたり下げたりするとのことですが、カミサンが飲んでいる薬は大丈夫でしょうか」

 患者さんから、質問がありました。その方の奥さんは高血圧で、高血圧の薬(ACE「エース」阻害薬と利尿薬)を飲んでいるそうです。

 その方がネットで見たのは、英オックスフォード大学の研究者らが、世界的に権威のある医学雑誌ランセットに発表した内容です。

 それによると、研究者らは「BPLTTC」のデータセットから、一定の条件を満たすランダム化比較試験19件(約14万6000例)を選択し、メタ解析で主要な降圧薬5種類による2型糖尿病の予防効果を検証しました。

 BPLTTCとは、オックスフォード大学に拠点を置く委員会によって設立された組織で、高血圧治療薬の心血管合併症予防に関する大規模臨床試験のメタ解析を行っています。メタ解析とは、複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計解析手法のことです。

 解析の結果、高血圧の治療薬であるACE阻害薬とARBが2型糖尿病の新規発症リスクを低下させ、β遮断薬とサイアザイド系利尿薬がリスクを上昇、カルシウム拮抗薬はリスクへの影響が見られなかったとのこと。

 冒頭の患者さんの奥さんは利尿薬を服用とのことですから、この研究結果を見ると、心配になるのはもっともですね。

 私の考えを先に述べると、2型糖尿病の新規発症リスクを上昇させたとしても、いま使っている薬で血圧をコントロールできているのであれば、現在の薬を服用し続けるべきでは……というもの。メリットとデメリットがある場合、治療ではメリットの大きい方を選択します。

 ただしこれは、その人の高血圧のタイプに合った薬が適切に処方されていることが大前提になります。血圧の薬には、作用機序が異なるものが複数あり、日本で使われている主要なものとして、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、カルシウム拮抗薬があります。

■効果が不十分な場合、2剤、3剤と薬を増やすが…

 一般的に、高血圧の薬はこれらの中からまず1剤が処方されます。ACE阻害薬とARBは同系統の薬なので、「ACE阻害薬またはARB」「利尿薬」「カルシウム拮抗薬」の3パターンのどれかになります。

 それで効果が不十分であれば、2剤、3剤と薬を組み合わせていきます。「ACE阻害薬と利尿薬」「ARBとカルシウム拮抗薬」「利尿薬とカルシウム拮抗薬」「ACE阻害薬と利尿薬とカルシウム拮抗薬」といったようにです。

 ところが、どの薬にどの薬を組み合わせるかについては、特に根拠なく行われているケースが少なくありません。

 これが問題。というのも、高血圧には血管が収縮するタイプと、血液が増加するタイプがあり、どちらに属するかで合う作用機序の薬が違うから。自分の高血圧のタイプに合致していない薬が処方されていれば、きちんと薬を服用していても、血圧が十分に下がらない可能性があります。

 冒頭の患者さんの奥さんの場合、主治医が高血圧の専門医だそうで、主治医からは「血液検査で高血圧に関係するホルモンの数値を見ると、血液増加タイプ。これには利尿薬がよく効くんですよ」と説明があったとのこと。血圧は目標数値をずっと維持しており、おまけに血糖値は基準値範囲内なので、「糖尿病については心配せず、薬を飲み続けると、カミサンが申しておりました」と報告がありました。

 ちなみに、使い方にコツがある利尿薬は、専門医と専門医以外では処方数に違いがあるとの指摘もあります。塩分制限など食生活に気をつけ、そして薬も飲んでいるのに血圧が下がらない人は、一度専門医を受診し薬の見直しをしてもらうといいかもしれません。また近年ではさらに新しいタイプの降圧剤も出ています。改めて、今度お話ししたいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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