進化する糖尿病治療法

糖質の取りすぎよりも問題なのは、運動不足と脂肪多めの食事

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ご飯やパンなど糖質が好きだから、糖尿病になった。そう考えている人が結構いるのですが、日本人で糖尿病が増えたのは、糖質をたくさん取るようになったからではありません。

 糖尿病による死亡数、脂肪摂取量、糖質摂取量それぞれの1950年以降の変化を見てみると、糖尿病死亡数は増加していますが、脂肪摂取量と糖質摂取量では、脂肪が増えていて、特に75年くらいまで著しく増加しています。しかし糖質摂取量は減少しており、また、総エネルギー摂取量もやや減少しています。

 70年代に何があったかというと、まずはアメリカから某ハンバーガーチェーンが出店し、国内店舗数が増えました。自家用車の保有台数も上昇し、普段の生活で自分の足で歩く時間が減りました。

 これらが関係し、糖尿病患者の数が増加し、また総エネルギー摂取量に占める脂肪の割合が右肩上がりに伸びていることが、厚労省の調査でわかっています。

 つまり、糖尿病のリスクを上げるのは糖質ではなく、食の欧米化、そして運動不足にあるということです。ご飯やパンをたくさん食べているからといって、それだけでは糖尿病にはなりません(ただし、チャーハンとラーメンのセットのような「糖質+糖質」といった組み合わせを日常的に食べるのはNGです)。

 糖尿病の人やダイエット中の人には糖質制限を実践する人が多くいますが、私は糖質制限は勧めていません。これまで日常的に糖質を取っていた人が急に糖質をやめると、短期間なら継続できますが、長く続きません。ストレスになり、やがて「痩せたから、もう糖質を取っていい」などとドカ食いをしてしまう可能性もあります。

 ご飯など主食を取らない代わりにおかずを多く取るようになると、脂肪摂取量が増えますし、塩分の過剰摂取にもつながります。

 そもそも、糖質制限は糖尿病の根本的な問題解決になりません。糖質を取らなければ血糖値は上がりにくくなりますが、それはモグラ叩きのようなもの。糖尿病に至らせた生活習慣が改善されていないので、次のモグラが現れます。

■根本的な原因に目を向けることが大事

 重要なのは、なぜそうなったかという根本的な原因に目を向け、そちらにアプローチすること。具体的には、肥満であれば体重を落とす、食事の内容、量、取り方を改善する、運動習慣を取り入れる。糖尿病というと血糖値ばかりに目がいきがちですが、血糖値が高い人はたいてい、血圧や脂質も高い。いずれも生活習慣が関係して数値が高くなるからです。

 高血糖の状態が長く続くと心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなるものの、実は高血糖だけではリスクが「1」程度。しかし、高血糖に高血圧、高脂質が加わると、リスクが10にも20にもなる。前述の「根本的な原因」に目を向ければ、血糖値とともに、血圧、脂質も低下するので、心筋梗塞や脳卒中のリスクをぐんと低く下げられることになります。

 優先的に変えるべきは、なんといっても食事です。血糖値、血圧、脂質を基準値の範囲にとどめられる食事は、すごく基礎的なもので、1日3食の栄養バランスのいい食事です。肉もタンパク源なので、赤身を中心に取りましょう。

 できれば朝食は多め、夕食は少なめ。夕食は、朝、昼に比べて糖質の割合は少なめにし、油分の多いものも控えめにしてください。仕事柄、どうしても食事時間が遅くなってしまう人は、夕方におにぎりなどを食べ、帰宅後はおかずだけを、食べすぎない程度に取るようにしましょう。食事前に運動をすると、糖が吸収されやすい状態になるため、避けることをお勧めします。

 甘いものに関しては、適量であれば、朝食前やおやつの時間に食べてOKです。ただし、「食事の代わりにケーキを」というのはやめてください。また、腎機能が低下している人や、一部の糖尿病薬を服用している方も、食事内容に関して慎重になるべきです。主治医と相談が必要です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事