「顎関節症」は放置してはいけない 元に戻らなくなる可能性も

指1本分しか口を開けられない人は危ない
指1本分しか口を開けられない人は危ない

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、いまやリモートワークがすっかり当たり前になった。これから収束を迎えたとしても、現状の勤務パターンが続いたり、コロナ前よりリモートワークが増える人は多いだろう。そうした環境では、「顎関節症」のリスクが上がるといわれている。小林歯科医院院長の小林友貴氏に聞いた。

 顎関節症とは、顎の関節や顎を動かす筋肉に異常が起こり、「顎が痛む」「口を大きく開けられない」「口を開けると顎が鳴る」といった症状が表れる疾患だ。この3つの症状のうち1つ以上に該当し、他に疾患がない場合に顎関節症と診断される。

「原因はさまざまで、歯ぎしりや食いしばりといった生活習慣、無意識に上下の歯を噛み合わせているTCH(歯列接触癖)と呼ばれる癖、それらの原因となるストレス、片側に偏った咀嚼、猫背のような前傾姿勢など多岐にわたります。そのため一概にそうとは言えませんが、リモートワークが浸透したことで、体をあまり動かさない環境下でパソコンやスマホの画面に集中する時間が増え、無意識のうちに歯を食いしばったり、長時間にわたる前傾姿勢や顎の筋肉が緊張している状態が続き、顎関節症につながるリスクがアップしていると考えられます」

 顎関節症の症状が表れたとしても、命に関わったり、日常生活が送れなくなるわけではない。しかし、口がほとんど開けられなくなって食事に苦労したり、頻繁にこめかみのあたりが痛むなどして生活の質は大きく落ちてしまう。

「顎関節症で口を大きく開けられない場合、そのまま放置していると、成人では半年ほどで外側翼突筋の上頭が萎縮して伸びなくなり、固まって元に戻らなくなる恐れがあります。口を開けて指が縦に3本入れば大きく開けられているといえますが、1本分しか開けられない場合は、その段階でしっかり処置を行うことをおすすめします」

■セルフケアが重要

 顎関節症の種類は、大きく「咀嚼するときに働く筋肉の炎症」と「顎の関節内部の異常」に分けられる。

 筋肉に問題があって痛みが出ている場合、まずは「セルフケア」での改善を目指すケースが多いという。

「咀嚼するときに働く筋肉に負担がかかり、耐えられなくなったときに症状が表れます。咀嚼筋のうち咬筋にトラブルがある場合は、筋肉に負担がかからないような生活習慣の改善を指導します。日頃から筋肉を温めてほぐしたり、硬いものを食べたり、ガムなどを長時間噛むのを控えてもらいます。無意識に歯を噛み合わせているTCHがある人には、『食いしばらない』『歯を離す』などと記した付箋紙を自宅や職場のパソコン、デスク周り、テレビ、スマホといった目につきやすい場所やツールに貼り付けて意識の改善を促すのです。さらに、顎の筋肉を指でほぐすマッサージ、口を開けて指で支えるストレッチなどのセルフケアを実践してもらいます」

 ほかに無毒化したボツリヌス菌を咬筋に注射して筋肉の動きを抑える治療を行う場合もある。

 顎の関節に問題がある場合、「マウスピース」の作製と「マニピュレーション」という施術が効果的だという。

 顎関節は、「下顎頭」という骨の出っ張り、頭蓋骨の下側にある「下顎窩」という骨のくぼみ、その間にある「関節円板」で構成されていて、関節円板は顎を動かすときに骨と骨がこすれないようクッションの働きを担っている。この関節円板が前方にずれていると、異音や痛み、開口障害などが起こる。

「口は開けられるが開閉に応じてカクカクという音=クリックが生じている場合、関節円板がずれたり戻ったりを繰り返している状態と考えられます。そのケースでは、顎の関節の負担を減らしてそれ以上は症状を進行させないことを目的にマウスピースを作製し、セルフケアも指導します。口が開かない場合は、関節円板が前方にずれて元に戻らない状態です。開かなくなって2週間以内の場合は、マニピュレーションを行います。術者が手で顎に力を加え、関節円板を正しい位置に戻す施術です。関節円板が元に戻って口が開くようになったら、再びずれてしまわないように口の開閉運動を30分程度行ってもらいます」

 病状がさらに進むと顎の関節の骨が溶けて変形してしまうケースもある。

 寝起きにこめかみ付近の片頭痛や顎の痛みがあったり、口を開け閉めすると異音がしたり、指1本分程度しか口を開けられない人は、歯科医院を受診したい。

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