くも膜下出血は発症2週間で人生が決まる 手術成功でも死のリスク

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 くも膜下出血の画期的な薬が4月に発売された。「臨床試験で驚くほど有意差が見られた」と話すのは、臨床試験に関わった東北大学病院脳神経外科の冨永悌二教授。話を聞いた。

 くも膜下出血は、脳の血管が破裂する病気だ。

「8割以上は脳動脈にできた瘤(脳動脈瘤)の破裂です。通常は症状がなく、ある時、突然破れて、くも膜下出血となる」(冨永教授=以下同)

 加齢が要因のひとつで、日本では過去30年間で約60%増加している。

 症状は、突然の強烈な頭痛。3分の1が死亡、3分の1が命は助かるが後遺症、3分の1が社会復帰と報告されている。

「出血が止まらないと血液で頭蓋内の体積が増え、脳が耐えられなくなり死に至る。病院で治療の対象になるのは、いったん出血が止まったケースです。再出血すると極めて予後不良で、発症1日以内、特に6時間以内に再出血が多い。そこで、くも膜下出血の治療は手術による脳動脈瘤の再出血予防になります」

 方法は2つ。1つはクリッピング術。開頭手術で、脳動脈瘤の根本をクリップで留める。もう1つはコイル塞栓術。脚の付け根から血管にカテーテル(細い管)を入れ、それを通してプラチナ製のコイルを脳動脈瘤に送り込み、瘤を完全に充填し破裂を防ぐ。これらの手術で再出血を予防できた、これで死のリスクを回避できたか、というと、そうではない。次は、脳血管攣縮、頭蓋内外の合併症、水頭症(脳室に髄液が過剰にたまり脳を圧迫する)の対処が鍵になる。いずれも、死に至る可能性がある。

「くも膜下出血は発症2週間で患者さんの人生が決まる。医療スタッフは術後も細心の注意を払って集中管理をしなくてはなりません」

■20年以上ぶりに画期的な新薬が登場

 今回、薬が発売されたのは、脳血管攣縮に対してだ。一般的に、くも膜下出血発症後5~14日の間に起こる。

「くも膜下出血でさまざまな物質が放出され、それらによって血管が一過性に細くなります。くも膜下出血の程度がひどいほど起こりやすいのですが、誰に起こって、誰に起こらない、というのは検査ではわかりません。重度の脳血管攣縮では脳梗塞へ移行してしまう。その程度が高ければ命を落としてしまう。くも膜下出血の術後、脳血管攣縮をいかに対処するか。脳外科医の力の注ぎどころなのですが、脳血管攣縮に対して『行うように強く勧められる(推奨度A)』治療法はこれまでありませんでした」

 脳血管攣縮の薬が日本では2種類承認されているものの、いずれも20年以上前のもの。ガイドライン2021年版では「推奨度Bエビデンスレベル低」。

 なお、推奨度はA~Iで分類されており、Aが最もグレードが高い。また、米国、欧州では脳血管攣縮で承認されている薬はない。

 今回発売の薬「クラゾセンタン」は、強力かつ持続的な血管収縮物質「エンドセリン」の働きを阻害する作用がある。脳血管攣縮の発現メカニズムは明らかではないが、エンドセリンの関連が指摘されている。クラゾセンタンをくも膜下出血術後に投与した臨床試験では、クリッピング術、コイル塞栓術どちらも、脳血管攣縮の発現割合、起こった場合の重症度が有意に低かった。

「従来の2種類の薬は脳血管攣縮が起こった時に使うもの。脳血管攣縮はいつ起こるかわからず、起こったらできる限り早く対処して死に至らせない、後遺症を残さないというのが脳外科医の使命でした。ただ、これが非常に大変だったのです。一方、新薬は術後の投与で脳血管攣縮を抑制できるというエビデンスがある。今後臨床現場で、くも膜下出血の患者さんの福音となることが期待されます」

 クラゾセンタンに関連した副作用としては、体液貯留(肺水腫、胸水、脳浮腫)、低血圧、貧血がある。しかし大部分は適切なモニタリングや患者管理で軽減できることが確認されている。

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