アメリカではドラッグストアから粉ミルクが消え、赤ちゃんの健康に脅威を与えています。5月中旬現在、全米の粉ミルクの品切れ率は4割強と発表されていますが、著者の近所のドラッグストアの商品棚はほぼ空っぽでした。
大手医療機器医薬品企業アボットの工場で作られた粉ミルクで、4人の赤ちゃんが細菌感染し、そのうち2人が亡くなったと伝えられたのが今年2月。大規模なリコールが行われ工場は閉鎖に追い込まれました。しかし1つのブランドのリコールと工場閉鎖でなぜこれほどの品不足が生まれたのか?
もちろんコロナ禍が原因の流通問題もありますが、専門家が最大の理由として指摘するのは、粉ミルクを生産している企業は大手3社のみという点です。つまり寡占状態で、その1つが生産停止してしまったために、すべての歯車が狂ってしまったのです。
そしてこの寡占は、想像以上に粉ミルク市場に悪い影響を与えていることがわかってきました。
実はこの感染問題は昨年秋の時点で内部告発があったにもかかわらず、会社とそれを管理する国の機関FDA(アメリカ食品医薬品局)の対策が遅れたために、工場閉鎖にまで発展してしまいました。その裏には無理をしてでも利益を追求する業界の体質があったと指摘されています。
実は日本ほどではありませんが、アメリカでも少子化が進んでいます。粉ミルク業界はこれ以上の成長は期待できない代わりに、行きすぎたコストカットで利益を上げようとしたため、このような事故が起きたと考えられています。
アメリカでは生後6カ月の赤ちゃんの4割以上が粉ミルクで育てられています。遠く離れたドラッグストアを何軒も回って粉ミルクを必死に探し回るお母さんや、母乳バンクに助けを求めるお母さん、体質に合わせた粉ミルクが手に入らず、代替品を使った赤ちゃんが病院に搬送されたことなどが連日ニュースになっています。
FDAとの交渉でアボットの工場は生産再開のメドが立ったとのことですが、商品が出荷されるのは2カ月以上先になります。その間は海外からの輸入に頼るということですが、まだまだ心配な状況は続きそうです。
ニューヨークからお届けします。