週1回の注射で痩せる!「肥満症」の画期的な新薬が厚労省へ承認申請

肥満と肥満症は違う(写真はイメージ)
肥満と肥満症は違う(写真はイメージ)

「肥満症の治療は今後、劇的に変わっていきます」

 こう言うのは、神戸大学糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授。小川教授が作成委員長を務め、6年ぶりに改定された「肥満症診療ガイドライン2022」も近々刊行予定だ。

 肥満症と肥満は違う。

「肥満症は日本肥満学会が中心となり2000年に提唱した考え方です。肥満は太っている状態を指し病気ではありませんが、肥満症は病気で、治療が必要。BMI(体重〈キロ〉÷身長〈メートル〉の2乗)が25以上で、かつ肥満を原因とする健康障害がある場合、肥満症と診断されます」(小川教授=以下同)

 肥満を原因とする健康障害とは、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、心臓病、脳梗塞。意外なものでは、月経異常や妊娠合併症といった産婦人科疾患、睡眠時無呼吸症候群、整形外科的疾患、がんも肥満と関係が深い。

 内臓脂肪が過剰になる肥満症では、脂肪組織から悪玉の生理活性物質アディポサイトカインが多く分泌され、善玉のアディポサイトカインの分泌が低下。健康障害が引き起こされる。

 冒頭で「肥満症の治療が今後、劇的に変わっていく」と述べた。

「これまで肥満症の治療は、食事療法、運動療法、認知行動療法が主体でした。肥満症の治療薬として食欲を抑える薬サノレックスがあったものの、十分な臨床のニーズを満たしていませんでした。それが今年、非常に有効な肥満症治療薬が承認されるはず。臨床試験で肥満症への効果は立証されており、現在厚労省へ薬事承認申請中です」 

肥満“症”は治療の対象(写真はイメージ)
肥満“症”は治療の対象(写真はイメージ)
“症”がつけば承認後は保険適用で治療できる

 非常に有効な肥満症治療薬とは、GLP-1受容体作動薬。すでに2型糖尿病治療薬として承認されており、臨床現場で広く使われている。毎日服用の経口薬と、週1回の注射があり、肥満症治療薬として承認申請されているのは注射になる。

 実はGLP-1受容体作動薬は、数年前から自費診療のクリニックで、美容・痩身・ダイエット目的に処方されていた。

 肥満症治療薬として承認間近のGLP-1受容体作動薬と同じ系統の薬ではあるが、背景が違う。

「薬は病気に対して治験が行われ、効果が確認されてこそ適正に用いることができる。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の治験は行われ、効果が実証されていましたが、ダイエット、ひいては肥満症については治験中で結果が出ていませんでした。その段階での使用は当然ながら推奨できず、日本糖尿病学会も『国内承認状況を踏まえた薬剤の適正な処方を』という見解を示していました」

 今回の承認申請は、肥満症にGLP-1受容体作動薬は効果があるというエビデンスを得た上でのことだ。承認後は、もちろん保険適用。

 なお今回薬事申請されているもの以外でも、GLP-1受容体作動薬関連のほかの薬が複数、臨床試験中で、今後続々と承認される可能性がある。

「肥満症には手術という治療法もあり、最近急激に手術件数が増えています。かつては手術は最後の手段のように捉えられていましたが、たとえば肥満が原因の糖尿病では、適切な段階で手術を行えば、糖尿病の寛解も期待できます。今後、肥満症の治療は、薬と手術の両輪で行われるようになるでしょう」

 薬と手術、またはそのどちらかで肥満症の治療を行っても、食事療法、運動療法は外せない。しかし食事療法と運動療法だけではなかなか肥満症が改善しなかった人には、薬の登場と手術の普及は大きな福音となる。

「肥満症は、体質や遺伝子も関係しているのに、個人に責任が押し付けられやすい。自己管理できない人という偏見が世間にはある。太っているのは自分が悪いと思っている肥満症の人もいる。しかし、肥満で健康障害があるのは肥満症という病気なのです。治療の必要がある。ぜひとも専門医に相談して欲しい」

 肥満症については、肥満症専門医の治療を受けるのが間違いない。一定数の肥満症専門医が勤務する認定肥満症専門病院が、日本肥満学会のHPで紹介されている。

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